魔法の箱貸します

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「いらっしゃい、坊っちゃん!箱は開きましたかね?……と、その表情は失敗しましたか?」 店主は太った体でカウンターから、勢いよく乗り出したが、笑顔でゆっくりと座り直す。 「おっしゃる通り失敗しました。それに、板が元に戻らなくて…そのまま持って来たんです、すみません」 俺は紙袋をカウンターに置いた。 「あぁ、そんな事なら構いませんよ。すぐ元通りになります」 紙袋を開けると店主は、箱を軽く叩いた。 すると、板がパタパタと自動的に戻っていく。 こんなに簡単に戻ってしまうなんて! 「残念でしたね。でも、こんなお若い方が、この店を利用してくださるのは初めてですよ。あぁ、良かったら、これをプレゼントしますよ。 深海に住む全長100mはある魚の、それの歯のキーホルダーです、どうぞ。なかなか姿を見せない魚ですから、割と貴重ですよ」 店主はカウンターに置いてある箱から魚の大きな尖った歯ばかり入ったキーホルダーを適当にとり、僕の目の前に差し出した。 「残念賞というところですかね。またのご来店をお待ちしていますよ」 「ありがとうございます…」 そう言ったのに、このアンティークショップに行けることはもうなかった。 次の日、ちらりと寄ろうと思ったのだが、アンティークショップに行く道自体が消えてしまったのだ。 どれだけ探しても道がない。 一体、僕が体験していた1週間はなんだったんだ。 アンティークショップは?レンタルしていたサラマドルは? 夢だったのか? でも、僕の手元には、残念賞の、魚の歯のキーホルダーがあるし、化け物の歯形も指に残っている。 "またのご来店をお待ちしております" 店主はそう言った。 もしかすると、ある日突然またあのアンティークショップがどこかで現れるかもしれない。 その時はもう一度、サラマドルをレンタルしたいと思う。
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