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ドキドキの観察が始まってから、二か月ほど過ぎたある日だった。
今日は定時で帰ることもできたし、夕食はさくっとコンビニ弁当で済ませてしまっている。今日も見るか、とベランダに出た私は、思わず“マジか”と小さく声を上げてしまったのだった。
共働きの両親は、今日は帰りが遅いパターンであったらしい。リビングの明かりは消えている。その代わり、二階の長女の部屋の明かりがついていた。カーテンがあいていて外から丸見えだということを失念しているらしい。長女は楽しそうに、弟“で”遊んでいる。
そう、弟と遊んでいるのではなく、弟“で”遊んでいるのだ。
泣いている弟を全裸にして、笑いながらその下半身に手を伸ばしているのである。まだ小学校にも上がっていないような男の子だ。自分が何をされているのかわかっていないのだろう。泣きながら、気持ち悪いからやめて、と訴えているようだ。しかし、姉は小さな体の様子が面白くてたまらないのか、裸の弟を抑えつけて下半身をいじくりまわしているのである。
性的興奮というよりも、好奇心やいじめと言った方がしっくりくる様子だった。いくら男と女とはいえ、中学生の少女の力に幼稚園の少年が逆らえるはずがない。床に押さえつけられた子供の白い足が、じたばたと苦しそうにもがいているのが見えた。
――あーあ。親がいないからって、好き勝手やっちゃって。
私はこっそりスマホのカメラを起動して、画面をズームにした。そしてぱしゃり、と写真を撮る。この距離だし窓も閉まっているのだ、シャッター音など少女たちには聞こえていないだろう。
――あの女の子、中学三年生って言ったっけ。てことは受験生ってわけだ。遅くまで塾に行ってる日もあるし……受験ストレスを弟にぶつけてるとか、そういうのかな。可哀想にね、あの子。
カワイソウ。そうは思いながらも、助けてやろうとは思わなかった。人様の家の事情に首を突っ込むのは良くないことである。どうせ、私が何かをしようがしまいが、物事はなるようにしかならないのだから。
――これが、最初の綻びか。……まさかこういう方向に行くとはなー。さて、その次はどうなるやら。
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