こわれる、こわれる。

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こわれる、こわれる。

『最近どう?怖い夢とか見てない?』  母は随分と心配性だ。初めて一人暮らしをする娘に対して、ちょっと過保護を発揮したくなるのもわからなくはないけれど。 『もう、私小さな子供じゃないんだからね?今年から社会人!立派な大人です!会社でも今のところ問題なくやってるから、心配しないでよね』 『貴女の問題なくって、結構問題だらけだったりもするから不安なのよ。ほら、小学生の時だって。隣のクラスの女の子がいじめられてた時に……覚えてるでしょ?』 『一体いつの話してるのよ。話題古すぎ、まったくもう!』  そんな文章を打ちこんだ後で、LINEスタンプを送信。ぷんすかと怒って走り回っているウサギの絵が送られる。このシリーズは無料で使えるし、感情表現豊かで見ていて飽きないのでしょっちゅう使っていた。ちなみに、ウサギとカメをモチーフにしていることからカメのスタンプもあるのだが、いかんせんカメは反応が優等生すぎて面白くないためあまり使われることがない。  完璧すぎるものは、面白くないものだ。世の中どこかに欠陥があったり綻びがあればこそ、人間味を感じて共感したくなったりするものである。ゆえに小さな頃から、クラス委員をやっていたりテストでいつも100点を取るようなタイプの子とは、あまり仲良くなれた試しがない。一緒にいても面白くないからだ。 『いきなり大量の仕事ラッシュで、正直今日は疲れたわ。というわけで、ちょっと早めに寝るね。また明日~(@^^)/~~~』  顔文字と絵文字、それからスタンプ。  華やかに飾って送信したところで、スマホをスリープモードにした。充電器に刺すと、アパートのベランダに出る。 「あーあ」  流石に、小さな子供がいる家ならば仕方ないか。夜の十一時。既に、真正面の一戸建ての明かりは消えてしまっていた。もう少し早く母との会話を切り上げればよかったな、と思う。 「しょうがないか」  私はため息をついて、部屋に戻った。  目の前の一戸建てには、夫婦と二人の子供(中学生くらいの姉と、幼稚園くらいの弟)という組み合わせの家族が住んでいる。  窓から彼等の様子を観察するのが、ここに引っ越してきてからの私の日課だった。
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