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西園寺さんとはそこで別れて、そのままグイと手を引かれ、タクシー乗り場へ。
どこに連れていかれるのかまったく見当が付かず、俺は半ばパニック状態のまま、停まっていたタクシーの車中へと押し込められた。
二見さんは俺に対して何か説明するでもなく、運転手さんに行き先の住所だけ告げると、隣に座ったまま無言でただじっと窓の外を見つめている。
でもその間もずっと手はぎゅっと握られたままだったから、俺の心臓は壊れたみたいにバクバクと脈打ち続けた。
そして目的地らしきマンションの前に到着すると、料金を支払い、俺にも降りるよう促した。
***
「ここ、俺んち。入って」
鍵を開け、ぶっきらぼうに言われた。
正直まだ状況にはついていけていなかったけれど、言われるがまま室内へと足を踏み入れる。
もっと大人っぽいシンプルな部屋を勝手に想像していたけれど、マンガ本だとか最新のゲーム機だとかが床には散乱していて、まるで同年代の友達の家に遊びに来たみたいだった。
それがなんだかおかしくて、そして同時にちょっと嬉しくて、にやにやと顔の筋肉が緩んだ。
すると二見さんは、呆れたようにフゥと小さくため息を吐き出した。
「あのさぁ……さっきあんな目に遭ったばっかなのに、ちょっとは警戒しろよ」
その言葉に驚き、彼の方を振り向いた。
「なんで簡単に、男の部屋に上がんの?
こんなの、何されても文句言えないからな?」
説教をするために呼ばれたのだと気付き、情けなさからまた少し泣きたくなった。
「子供扱い、やめて下さい。
……それに二見さんは、俺に何もしない癖に」
ちょっと困り顔で笑い、俺の頭に伸ばされた彼の手のひら。
くしゃりと髪を撫でられ、それにまた驚いていたら、優しく唇に口付けられた。
「ちゃんと警告、してやったのに。
……そんなだから、悪い大人にこういう事されちゃうんだよ?」
鳩が豆鉄砲を喰らったような、間抜け面を俺がしていたせいだろう。
彼はブハッと吹き出し、そのままゲラゲラと品なく笑った。
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