161人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ
「なんで、止めんの?
どんな目に遭わされそうになってたか、本気で分かってねぇの?
……それとも全部分かった上で、まだあんなクズみたいな男についてくつもりだった?」
両肩をグイと捕まれ、不機嫌な様子を隠す事なく聞かれた。
それに少しだけビビりながらも、ちゃんと伝えなければと思った。
だから真っ直ぐに彼を見下ろしたまま、静かな口調で答えた。
「違います!……そんな事よりもあの人に手を出したせいで、警察沙汰にでもなって、二見さんに迷惑をかけちゃうかもしれないのが嫌だったから」
驚いた様子で、息を飲む二見さん。
そのやり取りをそれまでおとなしく見ていた西園寺さんが、呆れ顔で笑って言った。
「そろそろ俺は、陸斗くんの待つ愛の巣に帰るよ。
だからちゃんと一度、ふたりで話せば?」
この人なりに、気遣ってくれているのだろう。
二見さんはフゥと小さく息を吐き、ネクタイを緩めた。
「……ホントお前、いちいちキモいな。
けどまぁ、いいや。あんがと。
ちょっと、冷静になるわ」
これまでのTHE 主従関係といったイメージとは、まるで異なる会話。
それに驚き、軽く引いていたら、西園寺さんはニヤリと形の良い口元を歪めた。
「これが二見の、素だから。
性格悪いし、口も悪いし、意地も悪いから逃げるなら今のうちだよ?」
「へ……?」
その言葉の意味が分からず、首を傾げた。
「うるせぇ、海晴。お前マジで、もう黙ってろよ!」
早口でそう言うと、二見さんが西園寺さんのケツを蹴り上げた。
そしてそれから何事もなかったかのように、いつもみたいににっこりと穏やかに微笑んで告げた。
「明日の仕事は、幸いリモートですべて事足りそうです。
なので朝、お迎えには上がりません。
車はそのまま、海晴さんが乗って帰って下さい。
それと私は明日有給を頂きますので、よろしくお願いします」
最初のコメントを投稿しよう!