見逃したフラグ

1/3
159人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ

見逃したフラグ

「おはようございます!」  出勤前、玄関を出たところで。  ちょうどお隣に住む老夫婦に出くわしたから、笑顔で声を掛けた。  するとふたりもにこにこと笑い、挨拶の言葉を口にしてくれた。   「あら!おはよう、陸斗くん。  今日もお仕事、頑張ってね」  僕の家はちょっと都心からは離れた場所にあるため、近隣の住人との関係は密で良好だ。  そのためこのおじいさん、おばあさんとは、僕が子供の頃からの付き合いだったりする。 「あぁ、そうそう。陸斗くんにも、伝えておかないとと思っていたんだったわ。  うちね、急なんだけど、来週引っ越すことになったのよ」  おばあさんが、ちょっと嬉しそうに言った。  だからこれは悪い知らせではなく、ふたりにとって良い話なのだろう。    全く寂しくないと言えば嘘になるけれど、彼らの幸せそうな顔を見るのは僕も嬉しかったから、笑って答えた。 「そうなんですね。どちらに、引っ越されるんですか?」  今度はおじいさんの方が、満面の笑みを浮かべて答えた。 「実はうちのこの土地を、高くで買い取ってくれるっていう、奇特な人がいてね。  息子夫婦と一緒に住むために、都内の一等地に家を建てる事になったんだよ」  こんな、辺鄙な場所を?  幾分疑問に思いながらも、まぁ、世の中には変わった人なんてたくさんいる。  ……例えば、例のあの人(・・・・・)みたいに。  だから僕は特に気に留める事なく、ただそうなんですねと、笑って答えた。  そして母から得た情報では、更にそのお隣のお宅も高価で買い取られていたらしい。    それを聞き、うちは対象外で残念だったねなんて、笑って話していたのだけれど。  あの時の僕は、誰が(・・)何のために(・・・・・)あんな土地を買収しているのかという事に、何故気付けなかったのだろう?  ……後から考えたら、ガンガンにフラグはたっていたというのに。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!