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見逃したフラグ
「おはようございます!」
出勤前、玄関を出たところで。
ちょうどお隣に住む老夫婦に出くわしたから、笑顔で声を掛けた。
するとふたりもにこにこと笑い、挨拶の言葉を口にしてくれた。
「あら!おはよう、陸斗くん。
今日もお仕事、頑張ってね」
僕の家はちょっと都心からは離れた場所にあるため、近隣の住人との関係は密で良好だ。
そのためこのおじいさん、おばあさんとは、僕が子供の頃からの付き合いだったりする。
「あぁ、そうそう。陸斗くんにも、伝えておかないとと思っていたんだったわ。
うちね、急なんだけど、来週引っ越すことになったのよ」
おばあさんが、ちょっと嬉しそうに言った。
だからこれは悪い知らせではなく、ふたりにとって良い話なのだろう。
全く寂しくないと言えば嘘になるけれど、彼らの幸せそうな顔を見るのは僕も嬉しかったから、笑って答えた。
「そうなんですね。どちらに、引っ越されるんですか?」
今度はおじいさんの方が、満面の笑みを浮かべて答えた。
「実はうちのこの土地を、高くで買い取ってくれるっていう、奇特な人がいてね。
息子夫婦と一緒に住むために、都内の一等地に家を建てる事になったんだよ」
こんな、辺鄙な場所を?
幾分疑問に思いながらも、まぁ、世の中には変わった人なんてたくさんいる。
……例えば、例のあの人みたいに。
だから僕は特に気に留める事なく、ただそうなんですねと、笑って答えた。
そして母から得た情報では、更にそのお隣のお宅も高価で買い取られていたらしい。
それを聞き、うちは対象外で残念だったねなんて、笑って話していたのだけれど。
あの時の僕は、誰が、何のためにあんな土地を買収しているのかという事に、何故気付けなかったのだろう?
……後から考えたら、ガンガンにフラグはたっていたというのに。
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