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作っておいた料理を温め、皿に盛り付けてからダイニングテーブルに運ぶ。今日は彼の好きなビーフシチューにした。パンとサラダを並べたところで崇文が部屋に入ってくると、椅子に座って無言のまま食べ始める。彼が味の感想を言わないのは当たり前。それを求めたら怒られる。
「……ドレッシングがかかってないぞ」
「あぁっ、ごめんなさい! 今やるから待ってね」
瑞穂が立ち上がると、崇文は大きなため息をつく。
「家にいるんだから、これくらいのことはちゃんとやってくれよ。俺は仕事でクタクタなんだ」
「えぇ、そうよね……本当にごめんなさい」
必死の思いで笑顔を浮かべたのが間違いだった。
崇文はスプーンとフォークをテーブルに叩きつけると、キッチンにズカズカと入ってきて、瑞穂の長い髪を引っ張った。
「何をヘラヘラしてるんだ! 俺は疲れてるって言っているよな! いい加減怒らせるようなことはするな!」
「ご……ごめんなさい!」
髪を強く引っ張られたかと思うと、そのまま頬に平手が飛んでくる。倒れた体に蹴りが入るが、瑞穂は堪えるしかなかった。
「どうしてちゃんと家事が出来ないんだ! お前がちゃんとしないのが悪いんだ! 何故普通のことが出来ない!」
瑞穂がすすり泣きながら何度も謝ると、ようやく崇文の動きが止まった。それから瑞穂のそばに座ると、彼女の体を抱き上げて優しく撫で始める。
「あぁ、ごめんよ瑞穂。疲れていてつい口が悪くなってしまった……痛いかい? 冷やそうか?」
「ううん、大丈夫。私がちゃんとやっていればあなたを怒らせたりしなかったんだもの……ごめんなさい」
「わかってくれればいいんだよ。じゃあドレッシングを持ってきてくれるかな?」
「ええ、今持って行くから、食べながら待ってて」
「あぁ、よろしく」
崇文がキッチンからいなくなると、蹴られて痛む腹部を押さえながら立ち上がり、なんとか平静を保ちながら彼の元へドレッシングを届ける。
「ありがとう。ああ、風呂を温めておいてくれるかな?」
「わかったわ」
瑞穂は返事をしてからすぐキッチンに戻り、ズキズキと痛む腹部を庇いながら給湯器の追い焚きボタンを押した。
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