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* * * *  崇文が風呂に入ったタイミングで、瑞穂は自室に戻る。彼が寝室を別にしたいと言ったので、二人はそれぞれ自分の部屋を持っていた。  結婚してからもうすぐ一年になる。図書館司書として働いていた時に崇文に声をかけられ、交際が始まった。  崇文は弁護士という仕事柄か、細かいことに気が付くタイプだった。それは付き合っている時にも感じていたが、頼りになる人だとしか感じていなかった。それ以外の時には優しかったし、いつもスマートにエスコートをしてくれたから。  交際を始めて三ヶ月ほどで結婚をした。ただ結婚式に家族を呼びたくなかった瑞穂は、式はしなくていいから家を買おうと提案したのだ。  崇文は友人が少なかったからか、その提案を喜んで受け入れた。それから二人は戸建てを購入し、二人での生活をスタートさせた。  仕事を続ける気でいた瑞穂だったが、崇文に自分のサポートをして欲しいと言われたため辞職した。  今考えれば、辞めるべきではなかったと思う。それでも彼のためにその選択をしたのだ。  最初のうちはお互い遠慮もあったし、付き合っているような感覚で過ごしていた。しかし半年が過ぎた頃から、不穏な空気が漂い始める。  崇文の受け持つ案件が(ことごと)く負けの結果となり、その感情を家に持ち帰ることが増えたのだ。  そして何が引き金となったかはわからないが、崇文は自身の苛立ちを瑞穂にぶつけるようになっていく。  初めは罵声を浴びせるくらいだった。それから徐々に暴力が始まり、いつしかそれが当たり前のように行われるようになった。  私がいけないのよ……彼を怒らせるようなことをしたから……。瑞穂は服を捲り、更に増えた痣を見ながらデジカメとスマホの両方で写真を撮っていく。  本当は一度だけDVの相談センターに電話をしたことがある。でも未だにこれがDVなのか、私が彼を怒らせているせいなのかはわからない。だけど電話口の人から、気になったら写真などの記録をつけるように言われていた。  見つかればもっと酷い事をされるかもしれない。私がもっとちゃんと家事をやればいいだけよ……そう思うのに、何故か証拠を残そうとする自分がいる。それはきっと恵介のことがあるからかもしれない。  母から恵介が予備試験に受かったと聞き、その後司法試験に受かったと報告を受けた。  ただ崇文は恵介の職業を知った時、理由はわからないが怪訝な顔をしたのだ。それが瑞穂は不思議だった。  弁護士と検察官が身近にいることもあり、証拠の大切さはよくわかっている。  ただ夫の所業を写真に収めることが良いことなのかはわからなかった。
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