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それは突然やってきた。
体の痣のせいもあり、外出が億劫になっていた瑞穂は、買い物はネットスーパーで済ませて家に引きこもるようになっていた。
日焼け止め対策と言い訳をして長袖を着たっていい。それでも何かの拍子にバレてしまうのではと思うと怖くなる。だってそのことを崇文に責められたら、今までのような事態では収まらないかもしれないもの……。これ以上の暴力はもう耐えられない……。
怖いのに逃げ出せないのは、逃げた後の方がもっと怖いから……。
その時だった。突然インターホンの呼び鈴が鳴ったのだ。体をビクッと震わせる。宅配便なら外の不在用のボックスに入れてもらおう。そう考えながらモニターに近寄る。しかしそこに映し出された人間を見た瞬間、瑞穂は口元を押さえて思わず後ろに退いた。
「どうして……!」
モニターにはスーツの男性が映り、カメラをじっと見つめていた。それは紛れもなく恵介だった。
久しぶりに見た彼は歳を重ね、最後に会った時よりもずっと大人びている。
まさか恵介が会いに来るなんて……嬉しいのに、今のこの状態で彼に会うことは出来ない。恵介は小さい頃から勘の良い子どもだった。だからこそ、私のちょっとした変化にも気付く可能性がある。
瑞穂は口を閉ざしたまま居留守を使うことを決める。恵介がモニターに近寄り、再びインターホンを押す。瑞穂はモニターに映る恵介をただ見つめていた。
諦めたのか、モニターの前から恵介がいなくなる。そっと息を吐き、どこか寂しさを覚えながらも、これで良いのだと自分に言い聞かせた。
その時だった。瑞穂のスマホが大音量で鳴り響いたのだ。その音を止めようとして、慌てて通話ボタンを押してスマホを耳に当てる。
「もしもし!」
『なんで居留守を使うわけ?』
なんて懐かしい声だろう……ずっと聞きたかった声。低くて、それでいて囁くように響く声。涙が出そうになる。
『瑞穂?』
「……い、今忙しいの……だからダメ……」
必死に言葉を絞り出し、なんとか恵介が帰ってくれることを祈った。
『それは無理な相談だよ』
恵介の声が聞こえた途端、庭に面した窓が勢いよく開かれた。瑞穂は突然のことに驚き、大きく目を見開いた。
先ほどまでモニターに映っていたはずの恵介が、窓から部屋の中へと入ってきたのだ。恵介は口元に笑みを浮かべ、へたへたとしゃがみ込んだ瑞穂を上から見下ろしていた。
「久しぶり」
実物の恵介を前にして、瑞穂は言葉を失った。
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