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コーヒーをグラスに注ぎ、ガムシロップとクリープ、そしてマドラーをトレーに載せて運ぶ。恵介の前に並べていた時だった。その手を突然恵介に掴まれたのだ。
急に恐怖に襲われ、瑞穂は必死に恵介の手を振り払おうとしたが無理だった。ただでさえ家に篭るようになって体力は落ちていたし、この状況になってから思うように食事も摂れなくなった。
恵介は瑞穂の着ているパーカーの袖を上まで捲る。その腕を見て絶句した。見えている部分だけでも青痣だらけだったのだ。
「なんだよ……これは……!」
バレた……! 瑞穂はこの期に及んでもまだ抵抗していた。
「は、離して!」
しかし恵介の耳には届かなかったようで、今度は前側のジッパーを勢いよく下ろし、瑞穂の体からパーカーを取り去ってしまう。
「やめて……!」
「瑞穂……どういうことだよ……なんでこんなに痣だらけなんだ⁈」
「お願いだから見ないで……」
泣き出す瑞穂の体に視線を滑らせる恵介の目は、今にも爆発してしまいそうなほどの怒りに満ちている。
「誰にやられた⁈」
「どうだっていいでしょ……恵介には関係ないじゃない!」
「関係あるに決まってるだろ⁈ 大事な家族が暴力の被害に遭っているのに、放っておくわけないじゃないか!」
嗚咽を漏らして泣き続ける瑞穂の背中に、恵介は恐る恐る触れる。抵抗されないことがわかると、優しく背中を撫でていく。
「……旦那がやったのか?」
「ち、違うの! 私がいけないの……仕事もしないで家にいるくせに、家事を完璧にこなせないから……。だから疲れて帰って来たあの人を怒らせちゃう私が……」
「何言ってるんだ。この家を見ればわかるよ。瑞穂はちゃんと家事をこなしてる。むしろ綺麗すぎるくらい」
「……でもまだ足りないの……きっとまた怒られちゃう……」
「怒られる?」
恵介が怪訝な顔をしたため、瑞穂はハッとして口を両手で覆った。しかしもう遅かった。彼の目は全てを見透かしたかのように瑞穂を見つめ、髪をそっと撫でていく。
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