第13章.雪嵐⑴

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 狭い峡谷の底。 吹き荒れる雪の音が耳を鳴らす。 見えるのは白い嵐。 ホワイトアウトだ。 他は見えない、何もない。 聞こえるのは海の神の悲鳴。 先に逃げて行ったトナカイの群れは里を越えて行っただろうか? 里山を見た。 遠く夜の明かりが見えた。 天井の星々のような村の明かり。 ふと吹雪の山々を見た。 山脈の切れ間越し凍結した内海が小さく見える。 その山裾(やますそ)の森に小さなカンテラの明かり。 女の子がいる!! その娘の前に黒い人影が見えた。 中年風の女だ。ただの女ではない。 本能が俺に告げている。 あれは人に化けた狗神だ。
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