1人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの、田中君と別のクラスにして下さい」
私は勇気を出して先生にそうお願いした。
「逃げちゃダメよ。これも河合さんの為なんだから」
先生は私の肩に手を置き、諭すように呟いた。
この時点で私は先生に何を言っても無駄だと納得し、あまりにも重い足どりで新しい5年1組の教室に向かった。
「ゾンビが来たぞ!」
何度も聞いた台詞と声が私の耳に刺すように通り過ぎた。
その声をきっかけにクラスのみんなが私を見る。
笑う子、驚く子、覗き込むようにじっと私を見る子、色んな子がいる中、田中君達だけはいつもと変わらない悪意たっぷりのニヤニヤした表情を浮かべていた。
「5年生もお前と同じクラスかよ!俺達までゾンビになっちゃったりして!」
と田中君のグループが笑うとクラス中のみんなもそれに合わせて笑い出した。
私はうつむきながら自分の席を探して座ろうとした。
その時、そこにあったはずの椅子が突如と消え頭から豪快に転んで、仰向けになった。
「あははは、何してんだよゾンビ女。同じ手に何度もひっかかるなよ」
田中君と仲のいい男の子が私が座ろうと膝を曲げると同時に椅子を引いたのだ。
私は顔から火が出るほど恥ずかしい思いを隠しながら再度椅子を元にあった位置に戻すとゆっくりと座った。
足が震える。新しいクラスのみんなの前で転んだ恥ずかしさで死んでしまいそうだ。これからの事を考えると朝食べたパンを吐き出してしまうかもしれない。
私はずっと、ずっと、ずっと我慢していた涙を思わず流してしまった。
自分でも驚いた。絶対に学校では泣かないと決めて去年1年間、我慢できた涙が頬をつたって机に落ちた。
私はすぐさま袖で涙を拭き、太ももをつねったが涙は止まってくれなかった。
どれだけ我慢しようと眉間に力を入れても、太ももをギュッと引っ張っても溢れる涙はボロボロと無意識にあふれだし、袖はびしょびしょになり机に水たまりができても尚、止まる事はなかった。
最初のコメントを投稿しよう!