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先生が教室に入って来ると「起立、礼」と挨拶を済ませ、このクラスに対する先生自身の思いやこれからの目標を語りだした。 それが終わると「次は新しいクラスメイトに自分の名前と、特技や趣味なんかを軽くアピールしましょう」と先生が言った事をきっかけに五十音順で自己紹介タイムが始まった。 おのおのが、自分の名前と好きな事や趣味を新しいクラスメイトに紹介する。 自己紹介が終わるとクラスメイトはパチパチと手を叩き新しい同級生をお互いに歓迎しあった。 次々と自己紹介は続きとうとう私の順番が回ってきた。 声を出すのが得意ではない私は席から立ち上がると、どうにかみんなに聞き取れる声量で話そうと喉から声を絞り出した。 「河合正子です。よろしくお願いします。」 私が名前を言った時、古門先生が口を開いた。 「彼女は昔、火事に巻き込まれた事があって顔に傷が残ってるの。容姿が変わってるからってみんな変に遠ざけないで仲良くしてあげてね」 他の生徒の時にはそんな事を言わずたんたんと聞いていた先生が何故か私の自己紹介の後にそう付け足した。 これほど嫌な特別扱いはない。 こんな事言われても私自身いい気分になる訳がないし、クラスメイトにも不気味に思われるか、同情されるだけだ。 先生のその言葉をきっかけに教室がざわつきだした。 「好きな事や趣味」 ざわついた教室がその言葉をきっかけにしんとした。 「好きな事や趣味いってねえけど」 その声の出どころは隣の席の男の子からだった。 「えっと、澤井友輝君は河合さんと同じクラスになるのは初めてね。彼女は恥ずかしがり屋であまりお話するのが得意じゃないの」 「知らねえよ、そんな事。仲良くしてあげてねって先生言ったけどさ、仲良くする理由が顔に傷があるからって馬鹿じゃねえの。仲良くする理由だろうが、しない理由だろうが顔の傷なんかで決めれるかよ。そんな事より友達になるなら趣味や好きな事聞く方がよっぽど大事だろ」 友輝君の言葉を聞き生徒や先生すらも一瞬黙りこんだ。 少し間が空き先生は我にかえると苦笑いを浮かべ、口を開いた。 「人には得意な事と苦手な事があるの。嫌な事を無理にさせるのは可哀想でしょ。河合さん気にしなくていいからね。座りなさい」 困ったような笑顔で先生にそう提案されたが、私の膝は言う事を聞いてくれなかった。 何故かはわからない、みんなの注目を集めているこの状況は今にもでも逃げ出したい気持ちでいっぱいなのにその気持ちとは裏腹に体は着席しようとはしてくれなかった。 中々座らない私をクラスのみんなが見ている。 「何もないなら早く座れよ!」 そう声を上げたのは田中君だった。 その声を聞いた途端、体がこわばり今の状況が自分にとってまずい事だと急いで席に座ろうとした時 「ズルいぞ」 隣からささやく様な声が聞こえた。 その時だった自分でも信じられないほど大きな声が教室に響き渡った。 「河合正子!!趣味は漫画を読む事です!好きな事はお母さんと話す事です!得意な事は勉強です!クラスのみんなと仲良くなれたら嬉しいです!よろしくお願いします!!!」 その大きな声を出していたのは勿論私自身だった。
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