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「ごーー、よーーん、さーーん」 トイレの中では楽しげな声がこだましていた。 私とバイク以外が声を揃えて数字を数える。 トイレの汚い床に水溜りができるほどポタポタとバイクの汗が落ちる。 数字は数えているものの遅い秒読みと10回終わる度の盛り上がりで何分経過したかわからない。 蒸し暑いトイレの中でバイクは140回腕立て伏せをさせられていた。 この巨漢をどうやって支えているのかわからない腕は痙攣するかの如くブルブルビクビクと震えている。 もれる鼻息や呼吸は荒々しく、曲げた腕を伸ばす度に奥歯を噛み締めるバイクの苦しそうな顔が見ていて私も辛かった。 「いいよ!バイク!叩かれるくらい平気だから!」 「ま、だ、まだ、大丈夫…」 そんな訳がない。とっくに限界はきているはずだ。この体型を見るにせいぜい10回もできればいい方。140回もできた事が不思議だ。 「やばい!やばい!150いったぞ!」 「本当すごいな!このデブ!どこにこんな筋肉あったんだよ!」 「頑張れ!頑張れ!」 応援や鼓舞や賞賛にも聞こえる、この冷やかしをする連中を私は睨みつけていた。 腹が立って仕方がなかった。自分がやられている時の何十倍の怒りが胸の中で暴れる。 「おら!腰もっとあげろよ!」 田中君がそう言った時私は立ち上がった。 「もう、やめて…」 情けないことにこの時わたしから出た言葉は怒りに任せた暴言などではなく懇願だった。 「私の事なら、はたいていいし、腕立て伏せなら私がするからもうやめて」 「デブがこんなに頑張ってるんだからここでやめさせたら可哀想だろ」 田中君が笑いながらそういうと、田中君に1人の男の子が勢いよくぶつかった。 「おい、何すんだ!」 「いって、いや俺も後ろから…」 と、みんなしてトイレの入り口の方を見ると後ろにいた子の首を腕で絞めた孝徳君と、その横にいた子の胸ぐらを掴む修平君がいた。
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