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「これお母さんにあげる」
私は来る途中で買ったお菓子をベットで横になってるお母さんに渡した。
「正子、お見舞いに来る時は何もいらないって言ったでしょ。あなたが来てくれるだけでお母さんは嬉しいんだから」
顔の殆どが包帯でグルグル巻きにされていてもお母さんが少し困った表情をうかべているのはわかった。
「お小遣いは自分の為に使いなさいっていつも言ってるでしょ」
「違うよ。これはクラスの男の子がバレンタインのお返しにくれたの」
「まあ、そうなの。その子は田中君?」
「そうだよ。義理だけどね」
「わからないわよ。もしかしたら田中君は正子の事好きだったりして」
お母さんは茶化すように微笑んだ。
「ありえないよ。私も田中君の事は友達として好きなだけ。バレンタインもいつも遊んでくれるから渡しただけだし」
「そうなの?でもこれは尚更、正子が食べなさい。お母さんは正子が見れただけでもうお腹いっぱいだから」
「ええーいいよ。別に本命でもないんだし」
「だーめ。田中君が可哀想でしょ。ちゃんとお礼は言ったの?」
「………言ったよ」
お母さんと話している時だけはいつも嬉しい気持ちでいっぱいなのに、田中君の事を思い出すとまた嫌な気持ちが押し寄せて来た。
このお菓子もお土産を嫌がるお母さんが喜んで貰ってくれると思って考えた嘘なのに
「じゃあ、売店に行って何か買ってきてあげようか?」
「そうねえ、お水はあるし…じゃあ飴でも買って来てもらおうかな」
「うん!任せて!何味がいい?!」
「正子に任せるわ。美味しそうなのお願いね」
「じゃあとびっきり美味しい飴玉買ってくるからちょっと待っててね!」
私はニコニコしながら病室を出た。
病院で行儀が悪い事はわかっていたけどついつい駆け足気味になってしまう。
1階につくと売店でぶどうや桃やオレンジ、色んな味が入った飴の袋を買い爛々とした気分でエレベーターを待った。
「あれ、お前同じ学校だよな」
エレベーターを待っている時、横から同い年くらいの男の子に声をかけられた。
上下ジャージにセンター分けの金髪。たしかに学校で見かけた事があるような気がした子だった。
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