昔々…

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昔々…

 昔々あるところにとても美しい娘がおりました。王様と女王様の間に生まれたその娘は雪のように白い肌をしていたので白雪姫と呼ばれ、大層可愛がられておりました。しかし女王様はある日突然倒れ、幼い白雪姫を置いて帰らぬ人となってしまいます。  王様は女王様無くしては娘との接し方が分からず、白雪姫は独りぼっちになってしまいました。  それを不憫に思った王様は新しい女王様を迎えました。そうして白雪姫の継母となった女王様でしたが、女王様はそもそも王様にも白雪姫にも興味がありませんでした。  女王様が真に欲したのは富、権力、名声、美……。そして、王様の秘蔵の品である魔法の鏡でした。一見銀の皿にしか見えないそれは、本当に美しいものの姿だけをその身に映すのです。(美しいものを愛した王様は、新しい女王様を探すのにこの鏡を使ったのでした)。生まれてから常に美しくあるよう育てられてきた彼女にとって、この鏡は自分の人生を肯定してくれる大事な物でした。  そうして王様と新しい女王様と白雪姫はすれ違ったまま、(つい)には王様も帰らぬ人となってしまいました。白雪姫は大変悲しみましたが、女王様は涙一つ流しませんでした。  それから数年後。その日は白雪姫の誕生日でした。魔法の鏡に、女王様の姿が映らなくなってしまったのです。いくら磨いても磨いても、銀色に鈍く光るだけでした。  きっと魔法の効力が薄れてしまったのだろう。そう思った女王様は、ただの皿と化してしまったそれを召使いに渡しました。食事の時にでも使えばいい、そう言って後はすっかり忘れてしまいました。  夕食の時間、女王様はチキンのローストを口に運んでいました。向かいに座った白雪姫は、とっくに食べ終わっているのになかなか席を立ちません。いつもはすぐに部屋に戻ってしまうのに、不思議に思った女王様が声をかけると、白雪姫は言いました。 「このお皿とっても綺麗ね。私の顔が映っているわ」  女王様はどきっとしましたが、かろうじて返しました。 「あらそう。でも、私のお皿の方が綺麗よ」  女王様はナプキンを使って皿に残ったソースを綺麗にふき取りました。銀色のお皿は輝いていましたが、歪んだ女王様の顔がぼんやりとあるだけでした。  白雪姫は女王様の言葉を聞き、自分の皿を持って駆け寄りました。 「見てくださいな。新しいお母さま」  そうして自分と女王様が映るようにお皿を掲げました。しかし、そこには白雪姫の姿しかありません。 「あら? どうしてかしら。新しいお母さまの姿が見えないわ」  女王様はそこから何も聞こえなくなり、何も見えなくなってしまいました。魔法の鏡は、まだ魔法の鏡のままだったのです。  そう。女王様はもう美しくなかったのです。鏡に映らないのがその証拠でした。  日々美しく成長する白雪姫の姿は、まるで女王様を嘲笑っているかのようにすら見えました。…………。 *** 「ごめんなさい! ごめんなさい! 許してください!」 「や、やめろ人聞きの悪い! 撃たねえから! 頼むから落ち着いてくれ!」 「えっ!? そ、その銃で私を撃つんですか!?」 「撃たねえっつの」 「痛いのは嫌です……お母さまぁ……助けて……」 「やめろって! お母さま言うな! 洒落になんねえから」  狩人は慌てて銃を捨てた。元より撃つつもりも無いが、こうも怯えられては手放して見せるのが一番だと思った。
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