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林檎売り
白雪姫はじっとしていられない性格だ。城で一人きりで過ごすくらいなら、町に出て色々な人と話をする方が好きだった。
狩人に怒られてまた小屋に戻されたものの、結局一時間と立たないうちに飛び出して森の中を歩き回っていた。
沢に足を入れて遊ぶ。キノコを探して遊ぶ。蝶を追いかけて遊ぶ。森は遊び道具ばかりだった。
白雪姫は上機嫌で切株に石を並べていると、背後から声をかけられた。
「おいお前」
「はい。私ですか?」
振り向くと、木の仮面を被った人間が立っていた。手には籠を持っている。体型からして男だろうが、ほっそりとしていて女のようにも見えた。
「あら。素敵なお面ね」
白雪姫が仮面に手を伸ばすと、彼は慌てて身を退いた。
「何考えてんだお前! 触るな!」
「どうして? 気になったんですもの」
仮面の人間は白雪姫から更に離れて、馬鹿にした口調で言った。
「はぁ? 常識がねえのか? 普通は先に声かけるだろ」
「そうなのですか。お面を貸してくださいな」
白雪姫が小さな両手を差し出すと、仮面の人間は手を振って拒否した。
「イヤだね」
「残念だわ。じゃあ、お名前を教えてくださいな」
「名前? あ、そうだ。思い出した。俺は林檎売りなんだ」
彼はそう言って手元の籠から青い林檎を取り出すと、白雪姫に渡した。白雪姫は「まあ」と声を上げて青い林檎をまじまじと眺めた。両手から零れ落ちそうだ。
「これは何ですか?」
「俺の話を聞けよお前は! 俺は林檎売り! 分かったか!?」
「林檎売り。ということは、これは林檎ですか?」
「そうだ」
「でも、林檎は赤いものでしょう?」
どうして赤くないのかしら? 林檎売りはゆっくり瞬きをして、それから何事も無かったように答えた。
「あのな。林檎は青くなってから赤くなるんだ」
「えっ! そうなのですか!」
「あぁ。赤い物は大体、最初は青いんだよ」
「不思議ですね」
白雪姫は感心しきって、瞳を輝かせた。白い肌に青い林檎がよく映える。林檎売りは彼女の呑気な様を見て頭を掻いた。彼女は、仮面の人間を見ても怪しんだり怖がったりしない。この肌の白さからすると妖精の類か、魔女の子供か。林檎売りは勝手にそう決めつけて、白雪姫から林檎を取り上げた。
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