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運命の日
都内の某書店内で、店内を見回しながら何かを探している1人の女性がいた。
探すこと数十分、ようやく目的の書棚を見つけ出したらしいその女性は、人々の間を縫うようにしてそこに直進していった。
本棚の前で視線を彷徨わせていた彼女は、不意にある一点で視線を止めた。棚に手を伸ばして一冊の本を取り出す。「小説時代」というタイトルが目に入る。どうやら文芸誌のようだ。
女性は眉間に皺を寄せると、そろりとその本を開いた。震える手でゆっくりとページを捲っていく。
やがて目的のページに辿り着いたのか、女性がぴたりと手を止めた。ページの右上に書かれた文字を食い入るように見つめる。
「第56回小説時代賞 一次選考通過作品」
なるほど。彼女は物書きで、この賞に自分の作品を応募したのだろう。そして結果発表日である文芸誌の発売日を待ちわび、こうして書店に足を運んだというわけだ。
女性はそこに書かれた名前を1つ1つ丹念に見て回った。熾烈な争いを勝ち抜いた猛者とその作品。そこに自分の名前が入ってはいないかと期待を込めて。
だが――どれだけ注意を凝らして見ても、彼女の名前も、彼女によって生み出された作品も、ついにそのリストの中に見つけることはできなかった。
女性はなおもリストに視線を落としていたが、不意に小さく息をつくと、そっと本を棚に戻した。ため息をつき、肩を落として本棚を離れる。
店内の雑踏の中では、彼女の姿に目を留める者は誰もいない。本を探し、ページを捲る間に、高鳴る心臓の鼓動を彼女がいかに抑えつけていたか。そして期待が泡と消え、高揚感がたちまち失われていったことも、人々はまったく知る由がなかった。
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