情熱と失意

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 だが、そんな活力に満ち溢れていた智子の心も、一次選考の結果を知った途端に虚無感に包まれることになってしまった。  初めて書いた小説らしい小説。半年かけて書き上げ、自分ではまずまずの出来に仕上がったと思っていた。その作品があっけなく落選した。その事実が簡単には受け入れられなかったのだ。  倍率が高いことは知っていた。それでも一次選考くらいなら通るだろうという仄かな期待があった。これだけ時間と労力をかけて書いたのだから、ある程度は評価されるはずだという自信があった。  だが、そんな智子の甘い見通しはあっさりと裏切られることになった。あまりにショックだったので、それから数日間は何も考えることが出来なかった。  自分が落ち込み過ぎだということは智子にもわかっていた。最初の作品でいきなり新人賞を受賞して、華々しくデビューするなんてそれこそ小説の中の話で、多くの作家は何度も落選を重ねた先にようやく日の目を見るのかもしれない。  でも、自分が落選した事実を目の当たりにするたび、智子はどうしても考えてしまうのだ。自分には才能がないのだと。  選考を通過した作品を読むと、自分の作品の方がよっぽど面白いのにと思うが、それでも負けたのは自分なのだから結局惨めな気持ちが募る。箸にも棒にもかからない作品を書いて、膨大な時間を無駄にしたと情けない気持ちになる。少しでも気を紛らわせようと読書をしてみるが、今度はプロとの実力の差を見せつけられるような気がして、大好きだったはずの読書でさえも次第に遠ざけるようになった。  そうして智子は、しばし失意の日々を送ることになったのだった。
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