2 朝咲side.

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2 朝咲side.

 私はとあるIT企業で臨床心理士の資格を持つ職場カウンセラーとして働いている。  この会社では半年に一度、精神状態を確認するためのテストのようなものがあり、そこでのテストの状況を見て面談という形でカウンセリングするのが私の仕事だ。  今の社会、SNSなどもありコミュニケーションが簡単に取れる時代にも感じるが、その反面悩みを一人で抱える者も多い。  海外でのカウンセリングは近所にお散歩に行って雑談をしてきたという感覚なのに対して、日本でのカウンセリングのイメージは精神疾患などの心が病気の人が受けるものとして認識されていることが多い。だから悩みがありますといってくる人の割合はとても低い。  さて!  今回の私のミッションは会社に来なくなった野薔薇光夜(のばら こうや)というエンジニアのメンタルケアを行うというもの。  彼は一人暮らしをしている。何度も彼に連絡を入れたが連絡が取れないまま。一人暮らしの場合、最悪死んでしまっているということもあるので彼の家を訪問することとなった。本来ならば家族に連絡を取るのだが、彼には家族がいない。  そんな彼の生存確認をするため人事担当者と一緒に彼の家に来た。  彼はお金持ちの家のお坊ちゃまらしく、高い塀に囲まれた大きな庭のある洋風のお城のようなお屋敷に住んでいる。賃貸であれば大家さんに鍵を開ける協力をいただけるのだが、今回はそれが難しいということで警察の方を呼び、少し手荒だがドアを抉じ開けてお邪魔をすることになった。  ドアが開き、彼を探すことに。  大きな声で名前を呼びながら一つ一つのドアをノックして開けていく。  西日が入り込む一番端にある部屋を名前を呼びながらノックしてドアを開ける。ドアを開けると目の前の窓のテーブルの上に一輪の赤い薔薇が飾られていた。あまりにも薔薇が美しく触ろうとすると低い声が聞こえてくる。 「おい、お前。何者だ? 俺の大事な薔薇に触るな」  声の主は真っ暗な部屋のベッドの上で両膝を抱え丸くなった状態で目をキラッと光らせ睨みつけてくる。 「あ、すみません。えっと、野薔薇さんですか? はじめまして。私は同じ会社のカウンセラーの鈴木朝咲(すずき さえ)です。野薔薇さんと連絡が取れなかったので生存確認のためお邪魔させていただいております」と深々とお辞儀をする。 「今すぐこの部屋から、この家から出ていけ!」と野薔薇は大きな声で叫ぶ。 「出ていきません! 少しだけでいいのでお話させて下さい」  野薔薇の声に気づいた他の人たちが部屋に集まってくる。野薔薇はたくさんの人に驚き、物を投げ暴れだす。仕方がなく一旦部屋を出ることにする。私は野薔薇と二人で話がしたいと他の人たちを説得させ、外で待ってもらうことにした。気を取り直して野薔薇の部屋に戻ると暴れていたのが嘘のようにまた両膝を抱え顔をうずめ丸くなっていた。 「野薔薇さん、少しお話をしませんか」 「出ていけ」  あまり強引なことをしない方がいいだろうけど、ここで帰ったら二度とこの家には入れなくなってしまうからここは……。  私は野薔薇がいるベッド前に座り込み話しかける。 「少しだけ、お話させて下さい」 「お前、俺が怖くないのか」 「怖い? どのへんがですか」と不思議そうに返すと、野薔薇は立ち上がり私を片腕で持ち上げ投げ飛ばす。 「怖いだろう! さっさと帰れ」  起き上がると、目の前にある薔薇が目に入る。 「夕日を浴びる、薔薇。絵になりますね」 「お前は馬鹿なのか?」と野薔薇は威圧感をかけようと近づいてくる。 「うふふ。やっとお顔を拝見できました!」 「お前は俺が馬鹿者で見た目もひどく醜いと思うだろう?」  野薔薇は巨漢で髪はボサボサ、無精髭を生やしている。 「そうですね」と私が言うと野薔薇は目くじらを立て歯を食いしばり今にも殴りかかってきそうな様子。 「私は嘘を付く人が嫌いです。だから嘘は付きません。だから本当のことを言いました。でも野薔薇さんは馬鹿者ではありません。だってご自身で馬鹿だと考えていますから。考える人は馬鹿ではありません。それに醜いと思っているということは変わることが出来るということですもの。アナタはそれらを理解できるステキな方だと思います」  野薔薇はしばらく沈黙してから口を開く。 「俺の妻になってくれないか」  突然のプロポーズに驚き、間を開けず「嫌です」と言ってしまう。  そんなことがあり、私は彼に気に入られた。  それからは毎日、この家に通うこととなった。
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