3 光夜side.

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3 光夜side.

 俺は一目惚れというのをした。  それは「一目みただけで相手に惚れてしまった」という意味ではなく心に一目惚れをしたのだ。もちろん容姿も美しいのだが。  俺は正式に休職届を出した。  会社を辞めてしまったら彼女に会えなくなると思い、それに少し勉強もしたいと考え、この選択をした。  俺は彼女と約束事をした。  それは彼女が一ヶ月間、ここに毎日通うというもの。  最初は断られたが、俺が毎晩ディナーを作り振る舞うという条件を呑むことで成立した。  彼女は仕事が終わるとデザートを買って家にやって来る。俺は今まで自分の好きなものばかりを食べていたが今は彼女のことを考え、栄養バランスも考えながら料理をするようになった。  そもそも料理もはじめてだった。朝と昼に料理の練習をして、夜の本番に備える。他の時間はプログラムの勉強と見た目も変えようと筋トレも行っている。今までで一番、充実した生活を送っているような気がする。  それもこれも彼女の存在があるからだ。  人をはじめて好きになった。  恋をするとこんなにも毎日が明るく楽しく感じるのだと知ることができた。  彼女にいいところを見せたい!  そんな一心で俺は少しずつ変わっていった。 * * *  あっという間に一ヶ月が経った。 「今日で約束の一ヶ月ですね」と彼女は優しく微笑む。 「はい。もっと一緒にいたかったです」と俺は下を向きながら言うと 「アナタは笑顔が似合うんですから! 笑って下さい」 「だって、もうキミと過ごせなくなるんだよ。俺は悲しいよ」 「もう! 誰が今日で最後っていいました?」 「え?」 「明日からもまた来ます! これからは一緒に料理をして食べませんか?」 「いいんですか?」 「はい! 明日からもお世話になります」 「こちらこそ! お世話になります」  俺たちは約束という、指切りをした。  これからもこの時間がずっと続きますようにと願って。
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