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私がお坊ちゃまとお会いしたのは雲一つない蒼穹がどこまでも続く日だった。少し暑いがまだ過ごしやすい気温の中、屋敷の前に停まったお金持ちの証でもある自動車から皺が少し目立つ男と共に降りてきたのが、黒いハーフパンツと白いシャツに伸びるサスペンダーが小さな体にピッタリなお坊ちゃま。
「お待ちしておりました」
私は二人へ向け深く頭を下げた。
「ほら、行きなさい」
男は私が顔を上げると傍らのお坊ちゃまの背を少し押した。一歩。背を押され進んだお坊ちゃまはすぐに立ち止まると、不思議そうに私を見上げていた。
だがそれも束の間、再び(今度は自分の意志で)足を前へ進めると私の目の前へとやってきた。私は透かさず片膝を着く。なるべくお坊ちゃま同じ目線になるように。
「ボクの名前は、アーサー・S(セオ)・コーテルラ・F(フィンリー)・ウォランス」
そう胸に手を当て堂々と名前を口にする姿は幼いながらもしっかりウォランス家の人間であることを物語っていた。
「私は、これからお坊ちゃまの身の回りのお世話をさせていただきます。真琴、と申します。未だ至らぬ点はございますが、どうぞよろしくお願いいたします」
言葉の後は地面を見下ろすように頭を下げる。
そして再びお坊ちゃまのお顔を拝むと、私を真っすぐ見つめていたまだ幼く純粋で穢れの無い綺麗な瞳と目が合った。
「よろしくね! 真琴」
その瞬間、喜色満面となったその表情は頭上で私たちを照らす太陽より煌々としていて眩しいものだった。同時にそれは子どもの愛らしい笑顔でもあり、これから私が守っていかなければならないものだと強く思わせた。
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