2人が本棚に入れています
本棚に追加
*
拝啓
お元気ですか。
手紙なんてあまり書かないので、どう書けばいいか戸惑っています。
そちらの暮らしはどうですか。不自由してないですか。
そういえば、9月の末になると、決まってあなたの夢を見ます。
*
ああ、これは夢だなとぼんやり感じながら、私は手紙を書いていた。6年前の9月の末の早朝に、バイク事故で死んでしまった幼馴染に向けて、夢の中でたどたどしく文字を紡いでいた。
――手紙を書くとなると敬語になってしまうのはなぜだろう、と思いながら。
彼は気の置けない友人だった。背がちいさい同士、何かと接触する機会が多く、それゆえ小学生の頃は顔を合わせれば喧嘩をしていたし、取っ組み合いにもなったし、先生に呼び出されもした。中学に上がってから絡みは格段に減ったものの、卒業アルバムには彼の書いてくれた言葉が残っている。
「9年間ありがとう!高校行ってもがんば!」
もしかしたら当たり前のことなのかもしれないけれど、人気者の彼が私のことを忘れずにいてくれたのがうれしかった。
ほとんどの友人と離れ離れになってしまった高校一年生の夏。友達の家で遊んでいたとき、近所に住んでいた彼がひょっこり顔を出してきた。
「なにやってんだ、お前ら」
家の庭で花火をして遊んでいた私たちを見下ろして、ぶっきらぼうに言う。
「なにって、花火」
「見りゃ分かるっつの」
「明日みんなでプール行くんだ」
「ふぅん」
自分で聞いてきたくせに、微塵も興味なさそうな返事をする。友達が残っていた線香花火を差し出しながら、宝物を見せびらかす子どものように、はしゃいだ声で言う。「だから今夜はうちでお泊りするの」
「よかったな」
線香花火を受け取った彼が、私の隣に腰を下ろし、ろうそくの火に花火の先を近付けた。じわ、と紙が赤くなった刹那、ちいさな火の珠がぶら下がる。
「うるさくすんなよ」
「してないよ」
肌にまとわりつく湿った空気。
じわりと浮き出る汗の粒。
肌をなでる程度の生ぬるい風も、今はやけにハッキリと感じる。
火の珠が短く火花を散らしながら、ちらちらとゆれる。徐々に火花が激しく散りはじめると、その衝撃で線香花火が左右に大きくゆれだした。火の珠が今にも落ちそうな様子で、不安定にゆれる。その様子を、みんなで息を殺して見つめていた。
ただ少しでも、ながく。
あわよくば、さいごまで。
「――あ、」
すっ、と火の珠が線香花火から離れた。
「へたくそ」
アスファルトに吸い込まれていくちいさな火の珠が、いやに美しく見えた。
最初のコメントを投稿しよう!