宛先のない手紙

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その、ほんの数日後だった。友人からの電話で目を覚ますと、開口一番、彼が死んだ、と聞かされた。 「今朝だって」 「うん」 「今はまだ病院らしいけど。お昼くらいに戻るみたいだから、もし今晩会いに行くんだったら一緒に行くよ」 「うん、ありがとう」 「それでね、お葬式なんだけど――」 不思議なことに、どんな感情も浮かばなかった。ただ淡々と彼の死を伝えられて、ただ淡々と日程を教えられて、それにただ淡々と相槌を打ち、ただ淡々と電話が切れた。 彼が死んだ。 口のなかで呟く。それでも何の実感もわかなかった。 その日の夜、電話をくれた友人と共に、彼がいる彼の祖母の家を訪れた。私の知っている人も知らない人も、何十という人が代わる代わる家を訪れて、棺のなかでひっそりと眠る彼に会いに来ていた。 線香をあげて、棺のなかを覗く。寝息が聞こえてきそうなほどに、ただただしずかな寝顔で、親御さんから聞いたグロテスクでショッキングな話からは想像もつかないほど、安らかな顔だった。 「はやく起きないと燃やされちゃうよ」 棺のなかで眠る彼は、いやに美しく見えた。 *
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