前編

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前編

 テレビ画面に髪がサラサラで、目がクリンってまあるくて、笑った顔が天使のように可愛い男の子が映し出された。  初恋。  そして一目惚れ。  頬が火照り、胸も熱くなった。訳もなく涙も出てきた。  私はそれから彼に釘付けになった。  当時の私は五歳。  彼の名は海琉航輝(かいりゅうこうき)、五歳。  あまりにも彼が好きすぎて同じ映像を繰り返し見ていた。  そんなある日。  母が彼のドラマが撮影されている現場まで連れて行ってくれた。  彼は真夏の中、厚めの長袖を着て撮影をしていた。  彼が撮影の休憩中にフラフラと歩いていくのが見える。私は彼が心配になり後と付けていくことにした。彼はおぼつかない足取りで何かを探しているようだったが、突然私の目の前で倒れてしまった。私はすぐに彼のもとに行き、持っていた生ぬるくなったペットボトルの水を飲ませ、頭からかけた。すると彼は意識を取り戻し、朦朧としながらも天使の笑顔をみせ「ありがとう」言ってくれた。 * * *  それから一年が経ち。  彼がトーク番組に出演していた時のこと。 「色んな質問に答えてくれたありがとう! 最後に、この質問をしないと怒られちゃうなー! 視聴者さんからたくさんの同じ質問が届いているんだけどね。ずばり! 航輝くんの好きなタイプは! 女子はみんな気になっちゃうよねー!」 「えっと、難しい質問ですね。う~ん……」と彼は少し困った顔をする。  あまりみない表情! 可愛い! 「そんなに難しく考えなくていいよ! 美人な子とか、清楚な子とか、笑顔が可愛いとかなんかないかな?」 「そうですね。僕が好きになった人が好きな人! みたいな!」と笑顔で答える。  うん、やっぱり笑顔が一番可愛い! 「あ~無難な答えだよ~。なんかない? ね?」 「う~ん。そうですね。えっと、去年のことなんですけど」 「うんうん。もっと聞かせて」 「真夏に撮影をしていたら倒れちゃったことがあって」 「え? 大丈夫! 大変だったね! それでそれで」 「その時に水をかけたり飲ませてくれた女の子がいたんですよ」 「おおお! いいね! まさに窮地を救う、人魚姫! それでその子が好きと?」 「彼女が僕の王子様というか。彼女のようなヒーローみたいな女の子が好みかな」  ぬをおおお! なんとおおお!  私のことじゃん!  私、ヒーローじゃん!  これは! 私がヒロインになるしかないじゃん!  そう思った私は彼のお嫁さんになるために……じゃなかった。  彼と同じ舞台に立ちたいと思い、女優の道へ進む決意をした!
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