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「それじゃあね」
そう言って彼女は涙も拭かずに背を向け、少しだけ高いヒールを鳴らしながら駆けていった。
果たして、封筒ひとつを手に持ったまま「うん」と頷いた僕は、彼女の視線に収まっていたのだろうか。きっと、ピントも合っていないだろうし、手ぶれだってひどいはずだ。もう彼女の中には、僕を収めておけるくらいの隙間なんてありやしないのだ。
もう一度だけでも話をしよう——。
そんな考えは、結局甘いのかもしれない。
せめて『待ってくれ』の一言でも、なんて考えも甘いのだろう。 待たせたことも数知れず、これ以上彼女に何かを求めるなんて。 ——そう、いつだって自分は身勝手で、それに気付いたのもこんな状況になってはじめてであって。 すべては今更だった。
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