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佐吉は幼馴染みの絹と今夜一緒に祭りに行く約束をしていた。そして祭りも最高潮に達し、打ち上げ花火がパッと花開いた瞬間に結婚を申し込もうと決めていた。そう、今日は特別な日なのだ。フンドシを締めて気合いでも入れないととても言えない。そしてもし上手く行って絹が長屋に来てくれたとしたら、ビシッと糊の効いたフンドシだと格好がつく。
「まあ何でもいいから貸してくれよ」
「分かりました。おーい、フンドシを適当に見繕って持ってきておくれ」
吉兵衛が奥へと声を掛けると「はーい」と女性の声がした。暫くすると若い女性がフンドシを何本も抱え奥から出てきた。
「お絹ちゃん!」
「あら、佐吉さん」
女性は絹だった。
「何でここに?」
「最近働かせて貰ってるの」
「でも今夜は……」
「大丈夫。働くのは夕方までだから」
それを聞いて佐吉は安心した。ならば今夜は一緒に祭りに行ける。それにここに絹がいるのは好都合だ。絹好みのフンドシを選べる。
「さて佐吉さん、どれにしますか?」
「う〜ん、そうだなぁ……。お絹ちゃんはどれが良いと思う?」
「え? 私?」
「佐吉には洒落っ気がなさそうだから、絹の知恵を貸してあげなさい」
「はい」
吉兵衛に言われ絹はフンドシを床に並べ考え始めた。
「一般的なのは麻だけど、最近流行の綿は肌触りが良いわよ。色はやっぱり白がいいわね。越中より六尺の方がしっかり締められそう……」
そして絹は一枚のフンドシを手に取った。
「これが良いと思うわ」
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