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授業終わり、いつもの待ち合わせ場所の下駄箱に向かうのが憂鬱だった。気づいてしまった感情は邪魔にしかならない。今まで通り過ごしたいわたしにとって、荷物となりえた。
わたしの顔を見てパッと顔を明るくさせるややちゃんがまたさらにわたしの悩みを膨らましていく。本人に自覚は無いだろうからこんなこと言ったら可哀想だけど、これは、ややちゃんのせいなのに。そんなふうに顔を明るくされたらこっちだって期待しちゃうよ、ややちゃん。
帰り道、通学路から道を外れたいつもの二人だけの道。珍しく話さないわたしを見てあからさまに動揺しているややちゃんはわたしをちらっと見上げて目を伏せた。そしてそれを何度も繰り返す。無言を貫くわたしへと話しかけるタイミングを伺っているのだろう、心配そうに見上げていた顔は徐々に困り顔になりついには泣き出してしまった。
「ねえ!なんでさっきから話さないのっ」
両手をぎゅーっと握りしめたややちゃんがいつもより少し大きな声で叫んだ。ぽろぽろと大粒の涙を流すややちゃんは、そんなことには構わずにわたしの前に立ち塞がって両手をバッと広げた。
「通さないぃ……話してくれるまで通さないから!やだ!やだ!」
子供みたいに地団駄を踏んで立ち塞がるややちゃんは通行人がこちらを見てくるのも気にせずに泣きながら通せんぼを続ける。見ているこちらがあわあわしてしまい、そっと手を掴んで路地裏へと連れていった。
「ややちゃん、ややちゃん落ち着いて」
「やだぁ〜なんで全然話してくれないの?なんで?怒ってるの?何に?どうして?いつからなのっ」
完全にパニックになってしまっているややちゃんの頬を撫でながら落ち着くのを待った。差し出した手に頬を擦り付けながら自分で徐々に落ち着いていくややちゃんを見て、愛おしさが溢れる。駄目だ、こんなこと考えてる場合じゃないのに。
「うう……なんで喋らないのぉ」
「ん、ごめんね。ちょっと……考え事してたの。ちゃんと言わなくてごめんね?」
「考え事ってなに?悩み事?私じゃ駄目なこと?ずっと話さないで考えてなきゃいけないこと?」
真っ赤な目をしたまままだ涙を流しているややちゃんの涙を拭いながら、話すべきか話さないべきか迷ってまた声が出なくなる。その間にも、ややちゃんはずっと、泣いているのに。
「話したらややちゃんが困っちゃうかもしれないから……」
「っうぅ……なにそれぇ……なんで私が困るの?何かしたの?何なのっねえ!答えてよぉ」
小さくしゃがみ込んだややちゃんはまたさらに強く泣き出した。小さな身体でめいっぱい泣くその姿に胸が痛く、そして熱くなる。駄目だ、これ以上黙ってたらややちゃんが辛い思いをしてしまう。こんなに泣かせてしまうくらいなら、いっそ。
「ややちゃん」
「なあにっ!」
「あのね」
「ん」
人の通らない静かな路地裏で、わたしのこの鼓動はどこまで届いて聞こえているのだろう。心配になるほどに早く動くこの心臓が今にも口から飛び出しそうで、気持ちが悪い。早く言わなければややちゃんをもっと辛くさせてしまうし、けれど、言えば今度は困らせてしまうかもしれない。進む道は、先の見えないこの路地裏のようにどちらも少しだけ暗かった。どっちが正解か分からないなら、せめて今のややちゃんが楽な方を。
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