不機嫌な二アリーイコール

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「……わたしね、ややちゃんのことが好きなの」 「私だって好き!」 「違っ、もっとちゃんと、ちゃんと好きってこと」 「私だって好きだもん」 「つ、付き合いたいっていう好きってことだよ?ややちゃんの好きは違うでしょっ?」  ついムキになって声を張り上げれば、ややちゃんは駄々をこねる時のあの顔、きかん坊の顔になって大きな声を出した。 「付き合いたいもん!」 「……へ?」  上手く飲み込めない状況とその言葉に何も言葉が出てこない。売り言葉に買い言葉で言ったとかじゃなければ、これって。 「やや、千那と両思いってこと!ややも好きだもん。ずっとずっと自分からは言えなくて、だから、待ってたんだから」  そしてわーっとまた泣き出してしまったややちゃんを優しく抱きしめながら詳しく聞きたい気持ちを抑えて優しく頭を撫でた。自分のことを名前で呼ぶややちゃんなんていつぶりに見ただろう。この目でこの耳で見て聞けば、さっきの言葉が嘘ではないことは当たり前のように分かってしまう。それなら。 「ややちゃん、お付き合いする?」 「ん……する」  風でどこかの缶がカランカランと転がっていく。そして、ふと、一瞬の静寂。風も人声も、鳥の声すらも聞こえずに。時が止まったみたいだった。見つめあったまま、ただパチパチと視線だけが爆ぜていく。 「ほっぺでいい?」 「いーよ。今はね」 「ふふっ、ありがと」  ややちゃんの身長に合わせてすこししゃがむ。涙に濡れた柔らかな頬に風のような静かなキス。 「……ヒリヒリする」 「帰ったら冷やそっか」 「千那がやって」 「はいはい」  これで良かったのか、悪いのか分からない。もっとややちゃんに合った可愛くてロマンティックな告白とかしてあげたかったな。でも、受け入れられるなんて思ってなかったから、そんなことできなくて。だからせめてこれからは、めいっぱい愛してめいっぱい好きを伝えて、めいっぱい甘やかしちゃおう。それで駄目になるんだったら、そんな駄目なややちゃんごと愛しちゃおう。好きでいよう。 「千那、まだ悩み事?」 「ううん。ややちゃん可愛いなって考えてただけ」 「はぁっ!?うるさ。うるさうるさ」  照れ隠しに早足になるややちゃんの耳は夕日とおなじ色に染まっていた。 「ややちゃん」 「なに」 「大好きだよ」 「や、ややも……」  音が戻った帰り道。カラスが鳴いて子供たちが隣を駆け抜けてゆく。車の走る音、誰かの話す声。そんな少し騒がしい街に紛れてこっそり繋ぐ、手。お互いの体温で滲む汗が気恥ずかしくて、けれど離しがたい。ほんの少しだけ形を変えたわたしたちの関係は、沈む夕日のように赤く、赤くきっとこれから染まってゆく。
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