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豆を砕くミルの音がして、ふわりと仄かな香りが漂った。春樹が挽いた豆をいれたペーパーをドリッパーにセットして、コーヒーポットからお湯を注いでいく。くるくると円を描くようにお湯が投下されていくと、コーヒーの良い香りが漂って、細挽きのコーヒー豆がふっくらと膨らんだ。
グァテマラ産のコーヒー豆特有の、ほんのりした甘い香りが鼻腔をくすぐる。ポトリ、と、ドリッパーからコーヒーサーバーへ最後の雫が落ち、春樹がドリッパーを外した。そのまま淹れたばかりのコーヒーを真っ白なコーヒーカップに移し替え、カウンター内の足元にある小さな冷蔵庫から牛乳パックを取り出していく。
「はい。いつもの」
「ありがと」
コトリと音を立てて目の前に差し出されたのはグァテマラの深煎り豆を使ったカフェオレ。猫舌の私はいつも淹れたてのコーヒーが飲めず、結局、この店にきてもいつもぬるいコーヒーを飲んでいた。コーヒーは挽きたて・淹れたてが香りが一番強く出て美味しく感じるらしいけれど、私はその醍醐味を最大限に味わうことが出来ずにいた。それでも、いつだったか春樹が冷たい牛乳を混ぜ温度を落としたカフェオレにすることを提案してくれたのだ。おかげでグァテマラ特有の華やかな果実香のある絶妙な酸味を味わうことができ、ひどく感動した。それ以降、私はこのカフェオレがお気に入り。
「マスターの跡継ぎになったらいいのに」
たまにしか店に立たないのに、相変わらず春樹は手際もいいし、コーヒーを淹れる腕もマスターに並ぶくらいの実力を持っていると思う。焙煎のことを勉強すればこの店の後継者になることも夢じゃないはず。この喫茶店自体は小さいけれど、ずいぶん前にマスターのインタビューが雑誌に取り上げられたこともあって焙煎の卸先は三桁に昇るらしく、マスターは安定した収入を得ていると両親が言っていた気がする。
司法試験は難関試験だ。一生を賭ける覚悟で臨んだとしても合格に至らないことは珍しくないと聞く。そんな難しい弁護士試験を受け、万が一司法浪人になったりするより、きっとその方が彼の将来を確固たるものにできるはずなのに。
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