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 いい感じの雨が降っている。  風はなく、雨粒も大きすぎず、細すぎることもなく、そして冷たすぎない。いい感じだ。  こういう日は部屋でのんびりするに限る。  私は窓際の椅子に背を預けながら左手のスマホを眺めた。画面の中では韓国の男性アイドルグループがキレのあるダンスを披露している。  かっこいい、と親指で動画の下のハートマークを押す。推す、とも言える。  そのまま親指で画面をスライドさせる。次々と名前も顔も知らない誰かが公開している動画が現れては消えていく。  そこでふと現れた広告に目が留まった。それは全国チェーンのカフェの広告で、季節限定のドリンクが今日から発売だそうだ。 「春だねえ」  穏やかな雨音に自分の呟きが混じる。  私が季節の移ろいを感じたのは、カフェの広告を見たからというだけではない。もちろん韓流アイドルのキレキレのダンスを見たからというわけでもない。外でいい感じの雨が降っているからというわけでは、少しある。  私は窓の外に目を向けた。  正確には、少しだけ開けた窓から突き出した自分の右腕。腕まくりをした白い腕の先の右手。  空に向けた手のひらから、真っ直ぐに突き出しているものを眺める。  そこには、一本の木があった。  私の手のひらの中央に生えているパスポートほどの高さの木は、あたたかい雨を喜ぶように青い葉を揺らしている。  生い茂る葉っぱと、びしょびしょに濡れてもかじかむことのない右手を同時に見て、私は無意識に言葉を漏らす。 「春だねえ」  その呟きに応えるように、木の先端にぴょこんと新しい青葉が生まれた。
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