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「おひさー優花。お、葉っぱ復活してる」
「そりゃあ生きてるからね。おひさ」
私は明奈に見せつけるように右手の木を差し出した。彼女は「よしよし大きくなれよ」と指先で木の頂点を撫でる。
「いやこれ以上大きくなったら困るから」
「大木になったら伐採して家を建てよう」
「そうなる前に私の右手が潰れちゃうよ」
「今から筋トレしなきゃだね。右手だけ」
にへら、と彼女は力なく笑う。
明奈は高校のときのクラスメイトだ。彼女は慌てることを知らずに育ってきたような人間で、どんなときものんびりとした空気を纏っていた。
テスト終了五分前に解答欄が半分も埋まっていなくても、教室が火事になって非常ベルがけたたましく鳴り響いていても、彼女の時間はいつも緩やかだった。
そんな彼女の隣はなんだか心地よく、違う大学に進んだ今もこうしてたまに連絡を取り合ってはお茶をしている。
「でも珍しいよね、明奈から連絡くれるなんて」
空いていた窓際の席に座り、この間広告で見た春限定のドリンクを飲みながら私は尋ねる。
『明後日の土曜日さ、空いてない? お昼とか』
明奈から突然そんな連絡が届いた。
特に予定のなかった私は『空いてるよー』と返信したが、よく考えてみれば明奈が日時を指定して誘ってくるのは初めてだった。いつもは『ねー、ひまー。優花もひま?』といった感じなのに。
「うん、大発見があって」
「ツチノコでも見つけたの?」
「それなら優花じゃなくて国立博物館に交渉に行くよ」
「明奈は交渉向いてなさそうだよね」
「大丈夫だよ。だってこっちにはあのツチノコがいるんだもん」
あのツチノコがどのツチノコなのかわからなかったが得意げに胸を張る明奈はなんだか微笑ましい。しかし彼女はすぐに「あ、ツチノコいないんだった」と張っていた胸を収めた。
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