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「ツチノコじゃないんだけどいい?」
「私としてもそっちのほうがありがたいよ」
きらり、と光が目に入る。
右手の木が窓から差し込む日光を浴びて艶めいていた。定期的にこうして日光を浴びないと元気がなくなってしまう。
別に放っておいてもいいのだが、自分の手のひらの木が萎れているのはなんだか気になった。おかげで私の右手はいつも日焼け止めクリームまみれだ。
そんなことを考えている間に、明奈は言葉を続ける。
「優花に紹介したい人がいるんだよね」
その言葉の意味を理解するのに数秒かかった。
「……え、ご両親?」
「なんでここでわたしの家族が大集合するのよ」
「だって紹介って」
「紹介って言ったら男の子だよ、男の子」
私は素直に驚いた。
私の知っている明奈は愛だの恋だのには非常に疎く、恋バナよりも「ねえ優花。目に見えないものを信じるという点ではさ、恋愛とマイナスイオンは同じだよね」という話ばかりしていたはずなのに。
「明奈、いつからそんなおませさんに」
「わたし今年で二十歳なんだけど」
彼女は唇を尖らせながら「でも、そういうんじゃないよ」と言った。
「じゃあどういうの?」
「こういうの」
明奈は自分のスマホを操作して、その画面を私に向けた。
そこには一人の男性が写っている。大学の構内だろうか、青いシャツを着た彼は大きな建物の前に笑顔で立っていた。
そして私はもう一度驚く。
彼の左の手のひらには、パスポートほどの高さの木が生えていた。
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