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「高船洋一です。左手から木が生えてます」
「秋津優花です。右手から木が生えてます」
駅前のファミレスで私たちは奇妙な自己紹介に笑い合った。
洋一は明奈と同じ学部に編入してきた同級生らしい。今日は彼女も同席する予定だったのだが、急用が入ったようで来ていない。
「でも私あの写真でしか顔見てないんだけど」
「顔よりもっとわかりやすい目印があるでしょ」
彼女の言葉通り、私はすぐに彼を見つけることができた。早めに着いた彼が左手を掲げて待っていたからだ。
「まさか自分と同じ人に出会えるなんて思わなかったです」
「私もです。まあ右と左は違いますけど」
「身長も人生も違いますよね」
些細なことだと言わんばかりに彼は笑う。確かに大きな枠では同じだ。手から木が生えてる人。
それから彼はオムライスを注文し、私はハンバーグを注文した。ハンバーグはいい。大きいお肉なのにフォーク一本で食べられる。まったく右手が使えないわけでもないのだが、やっぱり少し面倒だった。
「これ、どうなってるかわかります?」
右手でオムライスを口に運ぶ洋一は、左手をテーブルの上に差し出した。かさ、と葉が擦れる音がする。見た目からして私と同じ種類の木のようだ。
「それがまったく」
「ですよねえ」
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