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自分の手のひらに木が生えてきたことに気付いたのは七歳の頃だったと思う。
最初は小さな芽だったので手で毟っていたのだが、次の日になるとその芽はまた生えてきた。それから何度毟っても生えてくるので放っておくと、どんどんその芽は成長していき、気付けば簡単には取り除けないほどの立派な樹木になっていた。
「爪とか髪とかに近いんですかね」
「私もそう思います。切っても痛くないですし」
「あ、僕も剪定やってます」
高校に入学する頃には木の成長は止まったが、寝癖のように枝や葉が飛び出すことがあった。たぶん生育条件が関係しているんだろうけど、私はあまり詳しくないので飛び出した部分だけ切り落としていた。前髪を整える感覚に近い。
それからしばらく、彼と手に生えている木について情報交換をした。
その結果。
「わからん」
「なにこれ」
謎は深まるばかりだった。自分の手の上で起こっているこの現象は一体何なんだ。
テーブルの上では二本の樹木がどこ吹く風と揺れている。
「まあでも悪くはないんじゃないですか」
食後に頼んだコーヒーゼリーを食べながら彼は言った。私は皿に盛られたわらび餅を楊枝で刺す。
「悪くない?」
「別にこの木のせいでいじめられたりしたわけじゃないですし」
彼の言わんとすることは何となくわかった。
私も中学や高校では初めこそ気味悪がられていたが、木のサイズも小さく、葉っぱの形もハートに見えなくもなかったので「なんかよく見たらかわいいかも」と結局は受け入れられてきた。虫が近寄ってきたら追い払ってくれたり、落ちた葉を一緒に片づけてくれたりもした。
私の周りはいい人たちばかりなのだろう。
それに気付けたのも、この木のおかげだ。
「もともと人って色々違うじゃないですか」
「身長も、人生も」
「そうそう」
頷きながら洋一は笑顔を見せた。
屈託のないその笑みは、彼もたくさんのいい人に囲まれてきた証拠なのだと思う。
「その中では、僕は幸せなほうなんじゃないかなって思うんです」
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