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「うそでしょ……?」  待ち合わせの場所に現れた洋一の左手を見て、私は目を見開く。  手のひらの木は日に日に冷たくなっていく風の温度を測るように色を変え始めていた。彼の木には赤色と黄色の葉が混在し、私はほとんど黄一色に染まっている。  しかし違ったのは紅葉具合だけではなかったのだ。  彼の左手から垂直に生える一本の木。  その枝葉部を覆うように、すっぽりとネットが被せられていた。 「これで葉っぱが落ちても散らからない」 「天才じゃん!!」  私はいつも秋が憂鬱だった。色づいた葉っぱが散り始めるからだ。  小さな木とはいえ、そこには相当な数の葉が付いている。その片付けが大変なのだ。けれど放っておけば落ち葉は腐っていくし、踏めば足を滑らせてしまうかもしれない。  せめて一度にまとめて散ってくれれば片付けやすいものを、この葉っぱは一枚ずつ優雅に散っていく。 「でもその悩みがすべて解決する……?」 「そう。しかも百均で」 「私の願いが百円で叶うとは」  衝撃の事実に私は思わず拍手をする。  その振動で右手の黄色い葉っぱが数枚落ちたが、ここは屋外なので気にならない。   「予備のネットあるからあげるよ」  洋一はそう言って鞄の中から自分のと同じものを取り出した。排水口などに取りつけるタイプのもので、口部分にゴムが通っており伸縮性がある。 「右手出して」  言われた通りに右手を差し出す。  彼は私の黄色を包むようにネットを被せた。少し窮屈そうだが、私のために我慢しておくれ。 「ありがとう」 「どういたしまして」  私は付けてもらったネットを指で触る。  かなりしっかりとした作りで、簡単には破れそうもない。これなら枝が尖っていても安心だ。   「……あれ」 「どうしたの」 「いや、なんで予備持ってるんだろうと思って」  こんなに丈夫なら予備なんか要らなさそうだけど。  そう思い彼のほうを見ると、彼は今まで見たことのない表情を浮かべていた。なんというか、悪戯がバレた子供のような。 「……ほんとは、あげようと思って持ってきてた」  彼はばつの悪そうに俯きながら、ぼそっと小声で白状する。  私はそれを見て思わず噴き出した。 「笑うなよ!」 「あはは、ごめんごめん」  口では謝りながらも私はしばらく笑いを抑えられかった。  その振動で右手の黄色い葉っぱがまた数枚落ちたが、彼のくれたネットに受け止められたので気にならない。
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