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2025年4月、僕は人事部に異動となった。
KGYのアプリ開発において、単に設問に答えるだけではなく、ユーザーの表情や心拍数から本心で答えているかを計測する機能も搭載し、その精度を高めていった。990点を満点とし、600点以上のユーザーにKGYのスコアを付与した。
配信から一年あまりで2千万ダウンロードを記録し、弊社最大のヒットとなった。KGYの恩恵で弊社は上場の準備を始め、また僕は功労者ということで主任に昇格した。
そんな僕がなぜ人事部に異動となったかというと、文部科学省がKGYを小学校の道徳の授業に採用することを検討し、その有識者会議のメンバーに開発者である僕が抜擢されたからだ。会社側はKGYの宣伝になるからと、僕を企画課から外して人事部付きとし、有識者会議に専念するよう、お達しを出したのだ。
かくして僕は文部科学省主催の有識者会議に参加するのだった。
会議は文部科学大臣をはじめとした国会議員や教育に携わる有識者らが参加し、仰々しい雰囲気で行われた。終始、難しい言葉が飛び交い、学校教育について熱く議論が交わされる。次第に賛成派と反対派はその色を別ち、どちらも引くことなく互いの意見の正当性を説いていく。僕は彼らの高説を半分くらいしか理解できず、自ら意見を述べることもなければ、意見を求められることもなかった。いよいよ僕がひと言も発しないまま会議は終わろうとした時だった。大泉大臣が僕に視線を寄こした。
「今川さんは、どうお考えですか?」
正直、僕に意見などない。思えば、僕は権藤氏から教わったことをただ何となく場面場面で述べてきたに過ぎない。けれど、この場において何も言わないという選択肢はないだろう。僕は恐る恐る口を開いた。
「もしも皆さまの中で、まだKGYのスコアをお持ちでない方がいらっしゃれば、実際にスコアを取得してみてはいかがでしょう」
すると有識者の数名から不機嫌シグナルが発せられた。僕はすぐさま対処にあたろうとしたのだが、「ワッハッハ」と大泉大臣から笑い声があがった。
「論より証拠。皆さん、次回の会議までにKGYのスコアを取得して下さい」
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