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2036年9月、僕は国連事務総長の席に座っていた。目まぐるしく過ぎ去った時の流れの中での僕の経歴を掻い摘んで触れておく。
日本国におけるKGYの成功事例が米国の大手テレビ局で放送されたことがきっかけとなり、KGYは各国の言語に翻訳された。KGYは瞬く間に世界各地に普及する。全てとはいかないが、KGYのお陰で世界から紛争が減少したことは確かだ。
その流れを汲み、僕は外務省に転職し、国連大使となる。そのオファーの糸を引いていたのは、その後、総理に就任した大泉総理という噂がある。そう、KGYの普及に一役買った人だ。
各国の国連大使の多くがKGYのスコア保有者となる中で、KGYの開発者である僕は一目置かれる存在となる。そうして僕はあれよあれよという間に最年少で国連事務総長に推挙されるのだった。
そして本日、核廃絶決議の採択にあたり、これまで日本国が踏み込めなかった核兵器禁止条約に僕は今、踏み込もうとしている。それは事務総長として越権行為であろう。でもこれは僕にしかできないことなんだ。二年前、権藤のお婆ちゃんが亡くなり、名実ともに僕は『世界平和を謳う会』の理事長になった。権藤夫妻の志を僕が今、結実してみせる。
と心の中で格好いいことを言うのは簡単だけど、このお偉方を前に僕にそんな大それたことができるのだろうか? いや、できるかできないかじゃない。やるかやらないかだ!
「核兵器保有国、ならびに核兵器禁止条約に署名していない全ての国に申し上げます」
日本語で喋った僕の言葉が同時通訳される。僅かなタイムラグはあるものの、議場に集った全ての人の耳が僕に傾けられた。
「そろそろ核兵器を全廃しませんか。いっせえのうででやらないと、いつまで経っても核兵器はなくなりませんよ。次の世代のためにも、こんなものは地球上に残すべきじゃないんです。皆さんの気持ちはわかります。ズルをする国があるかもしれないと思っているんですよね。でも今はそんな国はありません。せえので署名して下さい」
その刹那、議場のあちこちで不機嫌シグナルが発生した。僕はすかさず両手を広げて言い放った。
「Oh Romeo! why are you Romeo? Please forgive my over-rights act」
(ああ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの? 私の越権行為を赦しておくれ)
一拍、二拍、三拍、議場は多種多様な笑い声に包まれた。
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