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エピローグ
「ついに来た」
「とうとう来たな、この日が」
第三部隊詰め所の中。隊員が全員、勤務時間外の早朝、暗いうちから、フル装備で待ち受ける。
「ええ、来ましたね。この日が」
由美がトゲトゲのモーニングスターを持って、ギラリとした目線で振り返る。本当に聖職者なのかわからない。
第三部隊の誰もが恐れる、そして由美すら脅威を覚える、バレンタインデー。
勤務開始の2時間前、職員用玄関が開く。その刹那だった。
「仁!ハッピーバレンタインデー!」
パキャ!
凪が反応して天井から出てきたインベーダーをプラスチック製強化ハリセンで駆除する。
天井の通風孔から、他部隊の男性隊員が上半身をぶら下げて気絶している。彼の手から床に落ちた、薔薇の花束。
「仁!会いたかった!」
ボリン。
今度反応したのはちま。別の通風孔の蓋が外れ、そこから顔を出した他部隊女性隊員が、ちまの繰り出した箒の先端を顔面にくらって沈黙した。
他部隊の彼女は通風孔が狭すぎたため、顔の肉が詰まってしまったらしい。進むも引くも出来なくなってしまった結果、その場で笑顔でバレンタインデー。命をかけているのはインベーダーも第三部隊隊員も同じ。
ドン、ドン、ドン!
ガシャーン!
屋外から詰め所窓ガラスに発砲あり。中年男性が飛び込んでくる。
何故か上半身裸でオリーブオイルを塗っており、肉体アピール。裸でガラスを割ってきたから、生傷だらけが痛々しい。特に右のびーちくの直下にガラス刺さってる。
「仁!君のために作ったんだ!」
ゴリン。
今度は牧田の肘鉄が、インベーダーのこめかみにめり込んで沈黙させた。
インベーダーの脇から落ちたのは彼自身の肉体自慢写真集。わざわざこの日のために作ったらしい。
次に何かが、メリメリきしむ音。
凪がハンマー、由美がモーニングスターを取り上げて、
「そこだあ!」
詰め所の壁の一部に同時一撃をお見舞いする。
ドガア!
壁が粉砕した。コンクリートの中に、他部隊の女性隊員が両手で海外製高級チョコレートの箱を持って、笑顔でめり込んでいる。
「仁、私の気持ち、受け取って!」
鼻に管を通して水分補給だけはしていたようだ。何日前から絶食していたのか。壮絶な絵面。
第三部隊受難の日は、あとホワイトデーとか、仁の誕生日とか、そういうの。隊長も懲りて、これらの日ばかりはボスに部隊の内勤担当を頼んでいる。
他部隊隊員は仁の事よく知らないうちに、一目惚れしてしまうケースが多かった。同じ部隊で仕事を始めると、仁の事情がわかってくる。第三部隊隊員は、仁の味方。
仁は詰め所のみんなに守られながら、今日も「別にいいのに」と煎餅を噛んでいた。非日常に慣れすぎた神様。毎日自殺までカウントダウン状態。
(終わり)
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