中身をどうぞお貸しします

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中身をどうぞお貸しします

 代わってもらいたいときに、気軽に中身だけ入れ代わってもらえるというサービスが普及してうん十年。人々は、なにかあったら金を払って、その場は変わってもらう、というのが当たり前な日常になっていた。  今や、政府が施行する経済方針がいつもズレているせいか、世の中は極端なまでの格差社会になっていた。金がある奴はさらに資産を増やし、貧乏人は費用ばかりかさんでいた。  気軽に入れ代わってあげる【請負人】は、大抵低所得者のアルバイトが【政府公認 あたなもチェンジ!サービス会社】に登録しており、依頼のタイミングに合わせて、依頼者と中身だけ入れ代わり、その契約時間が終了すれば、また中身を戻して、何事もなかったかのように、元の生活に返るという仕組みだ。    【請負人】として登録する人は、身元の確認を済ませた後、一番重要なことを設定する。それは、どんなことに耐性があり、代わってあげることができるのか、または苦手だけど、金払いによっては代わってあげてもいいのか、そういう項目を、選択肢から一つ一つ選び、登録は完了となる。  代わってあげられる対象は、”現代に生きる日本人のみ ※日本在住の方限定”と決まっている。日本では経済の問題こそあれ、基本平和な国だ。飢餓に陥ったり、殺人に巻き込まれることはあまりない。  だから【請負人】は、依頼人とそのときだけ入れ代わることに、そこまで抵抗を持っていなかった。他人の苦しみを代わってあげるにしたって、やり過ごしていれば終わるのだし、それも元々登録時にok.を出している項目だけ代わってあげるし、さらに自分のことではないので、後を引かない。それで金をもらって暮らしていけるのだから、コンビニで接客やるよりかは、割のいい仕事だった。  ところがだ。どうやら最近、異世界転生というのが誰にでも起こり得る当たり前の世の中に変わってきていた。つまり、入れ代わりの対象は”現代に生きる日本人のみ ※日本在住限定”だったはずなのに、契約に則り、入れ代わってあげた瞬間、依頼者が異世界転生中なので、魔法や獣人が存在する世界に飛ばされることも、よくあることになってしまった。  さもあれば、ドラゴンに火を噴かれている真ん前に立たされることもあるし、愛されない側妃として夫から婚約破棄を突き付けらている最中のこともある。  というわけで、思いもよらない展開に見舞われることも増えてきた。  しかし、だ。異世界転生といっても、様々な設定がある。いわゆるテンプレもの(わかる人にはこれだけで何を意味するか容易らしい)もあれば、堅苦しく古めかしい設定ものもある。  こないだなんか、飛ばされた先は、日露戦争真っ只中の、艦船の中で、船員として戦っている最中だった。戦記ファンタジーものに、依頼者はどうやら異世界転生中らしかったのだ。  そこで入れ代わった瞬間、立たされた状況は、以下のようなものだ。 ・極度の腹痛中の ・攻撃され中  それはまさに地獄だった。いくら正露〇を飲んでも、傷んだ食料を食べ続けて見舞われた腹痛が緩和されることはなく、そこに爆撃が飛んでくるので、戦わないといけないのに、腹でずんどこ節を鳴らし続けるバイキンを無視できるわけがない。  ちなみに、最初【政府公認 あたなもチェンジ!サービス会社】に登録したとき、得意なことに設定した項目は以下だ。 ・上からの抑圧 ・多少の痛み  それなのにこの現場、契約違反だろ、と異議申し立てしてやりたい。  今回の入れ代わりが終了するのは、抑圧と痛みが消えるまで、だ。そんな曖昧な……。  もう二度と入れ代わりのバイトなどしない。とトイレの便座に座りながら誓ったが、その前に爆撃に当たらずに生きて入れ代われるのか、そもそも腹痛は永遠に続くんじゃないのか、今はそんなことしか考えられない。  
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