絆(きずな)

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 機内の乗客は皆マスクをしている。そのせいなのか、私が他人に興味を持っていないからなのか、それは分からないが、全ての人が同じ顔に見えた。悪いのは、全部コロナウイルスだ。世界に降りかかった未曾有の危機は例外なく私の生活にも影響を及ぼした。  私は妻子ある男と不倫をしていた。でもそれは一時的なもので、いずれ解消され、その男と正式に結婚出来る筈だった。 「必ず妻と別れる。あと一歩のところまで来ているんだ。必ず香奈ちゃんを幸せにするから」  彼はそう言っていた。  彼は週に二度、私が住んでいるマンションにやって来た。彼が来るのは火曜日と金曜日で、その日はなるべく早く帰って夕飯の支度を済ませ、シャワーを浴びて、ベッドを綺麗に整えておく。彼がお風呂に入っている間に、私は夕飯の仕上げをして、バスローブに着替えた彼とワインを飲みながら食事をする。そしてベッドに入り、甘美なひとときを堪能するのだ。  私は彼の事を愛していた、彼も私の事を愛していた筈だ。きっとうまく行く、そう思っていた。コロナなんて厄介なウイルスが蔓延しなければ、私と彼の甘い時間が無くなる事は無かっただろうし、今頃、彼は奥さんと別れて私と新しい家庭を築いていた事だろう。
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