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2020年11月30日(月)最期まであと48時間
月曜日はO先生の訪問診療日だ。通常の診療が終了してから我が家に駆け付けるので午後十時を過ぎることもあるし、携帯は二十四時間いつ掛けても繋がる。
O先生は凄いとTは常々思っているが、Mは患者として、O先生に負けないくらい凄いと思う。
Mはヘモグロビン量が少ないので、針が太くて長い注射を打たなければならない。どの医者も「痛いね。ごめんなさいね」と平謝りするくらい痛いのだ。
ところがMは今日も歯を食い縛って我慢している。
採血もそうだ。Mの腕は骨と皮だけで血管も脆く、注射針が血管を刺すと、たちまち内出血となってしまう。他の場所で試みても結果は同じで結局この日は五回やり直して、やっとのことで採血した。
もう両腕の大部分が内出血でどす黒く変色している。
Mはじっと我慢していた。
凄く痛いし、凄く不安だと思う。
誰のために我慢しているのだろう。
O先生のためなのか、或いは、Tのためなのか。
いずれにしても、何もかも分からなくなった今でも『ありがとう』という気持ちや『迷惑をかけたくない』という気持ちや『我慢しなければ』という人にとって大切で尊い気持ちは持ち続けているようなのだ。
「頭が下がります」とO先生はTに言った。
老いによって何もかも奪われてしまっても、最後までその人に残されるものがあって、それはこれまでの『生きざま』によって決まるような気がする。
この期に及んでもまだ必死に我慢しているMの姿を見ていると、頑張って生きなければ、とTは改めて思う。
つまりMは今も立派な母親であり、その『生きざま』でTに色々なことを教えてくれている気がするのだ。
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