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空前絶後の台北VIP旅行-②
台北VIP旅行の最大のヤマ場は、Mが少女期を過ごしたその場所に、何食わぬ顔をして連れて行くというサプライズ企画だった。
太平洋戦争前の思い出だ。Mは懐かし過ぎて泣き崩れるかもしれない。
台湾政府は旧日本軍の主要な施設をそのままの姿で再利用している。
とは言うものの、Mが暮した官舎の手掛かりは・・・・
森鴎外が内装を設計した(らしい)
角地に在った(らしい)
馬車が何台も停められる車寄せが在った(らしい)
正門と母屋の間に巨木が在った(らしい)
庭はジャングル並みに広く野生の狸が出没した(らしい)
これらの拙い手掛かりを基に、台湾の知人を総動員してTは調査を開始した。
台湾人は殆どが親日家で、しかも親孝行というワードに物凄く弱い。親孝行のためだと言うと、それほど深い関係でない人でも平気で、一肌も二肌も脱いでくれる。
太極拳の師匠の藍さんという人が、調査内容をまとめて、幾つかの候補場所を提示してくれた。
「ありがとうございます。順番に連れて行ってみます。何処かで、あっ、此処だ、と思い出すかもしれないし」
Tは早速、地図で候補場所を確認した。
Mが亡くなった後、看護師さんからこんな話を聞いた。
「昔、住んでいたところに連れて行ってあげたんでしょう? 戦前のことなのに、よくまあ探し出して・・・・お母さん、無茶苦茶、嬉しかったって言ってましたよ」
探し当てたのは藍さんたちだが、Tは報われた気がした。
二十年前の台北VIP旅行のことを時々、思い出す・・・・
シェラトン台北の裏に在る政府施設を見た瞬間、Mは凍り付いたように動かなくなり、瞳はすぐに涙で溢れた。
「此処よ・・・・」
それを聞いて、Tも思わず涙ぐんでしまった。
しかし、せっかく探し当てたと言うのに、Mが少女期を過ごしたその場所の画像は残っていない。なぜならデジカメを向けた途端に守衛が駆け寄って来て没収されてしまったからだ。
後で蘭さんにその話をしたら、検挙され強制送還されなかっただけ幸運だった、と言われた。
写真は残っていないが、Mが言った通り、角地で、巨木も大きな車寄せも確かにそのまま残っていた。
実は、藍さんは、官舎の調査だけではなく、Mのために夕食会を計画してくれていたのだ。
「他のどんな料理よりも美味しかったって・・・・どんな凄い料理だったんですか?」
看護師さんに訊かれたが、Tは答えに躊躇し、笑いを堪えた。その理由はまた後ほど・・・・
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