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M16星雲??
少し横道に逸れる・・・・かもしれない。
Mは凄い星の下に生まれた。親ガチャで言えば最上位ランクだ。Mの父親(Tの祖父)は旧帝国陸軍の次期軍医総監と称されていた人物で、Mは少女期、あらゆる分野で神童と呼ばれた。父親の七光りで取り巻きがお世辞を言っていたのかもしれないが、そうだとしても、それこそが親ガチャの最上位、眩い閃光の星の下に生まれたということだ。
ところが、その父親が『捕虜を使った生体実験』に反対し、軍から追放されてしまう。一家は台北の豪勢な屋敷から岡山の場末の長屋住まいに急転落。
それでも逆風に果敢に立ち向かいMは必死に勉強して東京女子医専に入学する。ところが、学費がどうしても払えなくなって退学。よくない男(Tの父親)に引っ掛かり無理やり結婚、誕生した第一子(Tの兄)は先天的な重病で手術には多額の費用が必要。Mが一人でなりふり構わず死ぬほど働いた。
Tはこのことを知ってからMに対して或る思いを抱くようになった・・・・
Mはこんなところで燻っているような人間ではない、と。
Mの家族は、Tの父親やTのような愚人たちではなく、もっと立派で何か国際的な賞を受賞するような人たちの筈で、授賞式で「全て母(妻)のおかげです」とスピーチする筈だったのだ、と。
人生の歯車が無茶苦茶に狂って、Mはこんなところで燻っているのだ、と。
Tが世界中を回って、がむしゃらに働いたのは、何とか名を上げて、Mに相応しい家族になり、「この人生も悪くはなかった」とMに思って欲しかったからかもしれない・・・・若干言い訳がましいが。
しかし、こんな筈ではなかった人生のまま、Mの人生は終焉に向かっている。
「よし。こうなったら、せめて今から臨終のときまで、誰も真似できないような素敵な終わり方をさせてあげよう。最期に『この人生も悪くはなかった』と思えるようにしてあげよう」
少し脱線したが、プロジェクトMの根底にあるのは、こういうことだ。
試行錯誤を繰り返しながら、Tは当初想定していたよりも随分長い(二十年に及ぶ)長期プロジェクトを、周囲の協力に助けられながらではあるが、基本たった一人で遂行していくことになる。
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