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瓢箪から駒。勘違いから最善策
プロジェクトは大きく三つのフェーズに分かれる。
第1フェーズは2002年~2012年頃・・・・「最大の親孝行は海外旅行」とTが妄信していた時期。
第2フェーズは2012年~2018年頃・・・・Mが要支援となりTができるだけMの傍にいた時期。
第3フェーズは2018年~2020年12月・・・・Mが要介護となりTが在宅介護に徹した時期。
第1フェーズを振り返ってみると・・・・
海外旅行の妄信はTの勘違いから始まったのだが、この時期のMにとって最善だった気もする。
台北VIP旅行から戻って家に着くなりMは感嘆の吐息混じりに言った。
「もういつ死んでも思い残すことはないわ・・・・」
これは年寄の常套句で、本気で「いつ死んでも・・・・」と宣言しているわけではないと思うが、このときは本気だという気がした。それくらい満ち足りた空気を醸し出していた。
であれば、一度で終わらせる手はない。
毎年大晦日に台北というのも悪くないが、年末年始の海外旅行と言えばハワイと相場が決まっている。ハワイまでなら飛行時間的にも許容範囲内だし万が一のときも現地で日本人の医者がアレンジできる。
Tは旅から帰ったばかりでMにハワイVIP旅行のことを切り出した。
「そんな・・・・海外旅行なんて一度で十分よ。もったいないから」
案の定、そういう答えが返ってきたが、「行ってみたい」と目が訴えている。旅の楽しさを知ってしまったのだろう。
70過ぎるまで贅沢を徹底的に封印してきたのだから、これから旅三昧しても罰は当たらない。
現地のケーブルテレビ局のディレクターと仕事をしたことがあって、その人はハワイの津々浦々を知り尽くしている。
ハワイ一のロミロミをホテルの部屋で体験。膝も良くなる筈。
フラの元世界チャンピオンが目の前でMのために踊ってくれる。
ハワイ一の心霊スポットで心身にパワー注入。
この世のものとは思えないくらい美しいサンセットを眺めながらディナー。
次々とMのための特別な提案が飛び出してくる。勿論、現地の医者も紹介してくれた。
このときTは思った・・・・
Tが長年海外で仕事をしてきたのは、このとき、つまりMのVIP旅行のためだったのではないか。
長年奮闘しても何も残らなかったが、海外で仕事をしてきたからMのためのVIPな旅行を実現できるのであれば、これまでの半生は、或る意味で最善だったのではないか、と。
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