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「歩いていたら、いきなり車に引きずり込まれたのよ。そのあとはどうしたか覚えてないから、きっと気絶させられたのね。狭い病室みたいなところに閉じ込められて、また眠らされた。それで、起きたらタクシーの中ってわけ」
「解説どうも」
「いつもこの手口なの?」
男は肩を竦めた。
「知らん。俺はあくまで運ぶだけだ。誘拐の実行犯じゃあない」
「同じ一味じゃないんだ?」
「下請けさ」
少女があくびをひとつした。質問しておいて、あまり興味はないらしい。一方で、男の方は少女に興味を抱き始めていた。
「お前、妙に落ち着いてんな」
「だって、逃げ出せそうにないし」
「諦めが早いじゃねぇか」
「逃げるのは車を降りてからよ。まずは密室から脱しなきゃ」
男は笑った。なかなか面白い娘である。
「それを言っちまっていいのか?」
「ええ。逃げる気はないから」
「親御さんが心配してるぜ?」
「してくれたら嬉しい。けど、たぶんしない」
「……家出か?」
「まぁね。あんな時間にあんな所をほっつき歩く理由なんて、他にあんまりないじゃない?」
「知らねぇよ」
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