1.タクシーまたは水のボトル

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「歩いていたら、いきなり車に引きずり込まれたのよ。そのあとはどうしたか覚えてないから、きっと気絶させられたのね。狭い病室みたいなところに閉じ込められて、また眠らされた。それで、起きたらタクシーの中ってわけ」 「解説どうも」 「いつもこの手口なの?」  男は肩を竦めた。 「知らん。俺はあくまで運ぶだけだ。誘拐の実行犯じゃあない」 「同じ一味じゃないんだ?」 「下請けさ」  少女があくびをひとつした。質問しておいて、あまり興味はないらしい。一方で、男の方は少女に興味を抱き始めていた。 「お前、妙に落ち着いてんな」 「だって、逃げ出せそうにないし」 「諦めが早いじゃねぇか」 「逃げるのは車を降りてからよ。まずは密室から脱しなきゃ」  男は笑った。なかなか面白い娘である。 「それを言っちまっていいのか?」 「ええ。逃げる気はないから」 「親御さんが心配してるぜ?」 「してくれたら嬉しい。けど、たぶんしない」 「……家出か?」 「まぁね。あんな時間にあんな所をほっつき歩く理由なんて、他にあんまりないじゃない?」 「知らねぇよ」
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