1.タクシーまたは水のボトル

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 少女がふたつめのあくびをする。やっと少し眠くなってきたようだ。仕切り越しの少女の声が、籠ってさらに聞き取りづらくなった。 「あたし、死のうと思ってたのよ」  男は黙ってハンドルを切る。 「強盗か通り魔か、なんでもいいから殺してくれないかなって」 「……本当に死のうとしている奴は、そんな風に語ったりしねぇよ」 「そうかもね」  少女がクスクスと笑った。 「ねえ? あたしが売られるのって、風俗?」 「娼館だ。変態オヤジどもがわんさか来る」 「高い?」 「処女ならな。そのあとは、お前の頑張り次第だろ」 「運び屋の給料は? 高い?」 「安い。はした金だよ」  男はまたバックミラーを見遣った。少女はだいぶ眠気が強くなっているのだろう、気持ちよさそうに目を閉じて、唇には穏やかな笑みすら浮かべている。やっぱり変な娘だ、と男は思った。 「ねえ、おじさん」 「オニイサンだ」 「お兄さん――」  少女は笑いながら言い直す。 「あたしが売られたらさ、あたしのヴァージン、買いに来て?」
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