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「……は?」
咄嗟にブレーキを踏まずに済んだのは、男のささやかな意地だった。三度バックミラーを見る。少女は先程の体勢のままで、こちらを見ようともしていなかった。
「処女、買ってよ」
「なんでだよ」
「十六歳のヴァージンだよ?」
「ガキに興味はねぇよ」
いつの間にか、陽はとっぷり暮れていた。街には街灯が灯り始め、送り火のように前から後ろへ流れていく。対向車のライトが眩しい。男の無骨な横顔を舐めるように通り過ぎて行った。
「……本当はね」
少女が口を開く。
「誰かにナンパしてほしかったの。セックスって楽しいんでしょ? それを教えてもらったら、あたしも死にたくなくなるんじゃないかって、期待して」
「……よかったじゃねぇか。これからはセックス三昧だ」
「うん……」
でも、と。
はじめて、そこに微かな震えを聞き取った。
「『初めて』は、優しい人がよかったなぁ……」
それきり、どちらも口を開かなかった。
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