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「よお、ルーカス。ご苦労さん」
出迎えの黒服がそう言った。
タクシー一台に仰々しい人数が出て来たのは、あの少女の言う通り、このタイミングで逃げ出そうとする「荷物」が少なくないからだ。彼らは建物への道をつくるように人垣で囲い、後部座席に眠る少女の顔を覗き込もうとした。
「ぐっすり眠ってるな。幸せなこった」
「悪くない。アジア好きオヤジどもが喜ぶぞ」
男のひとりが少女を抱き上げる。黒髪とともに細い手足が地に向かって垂れた。
「そんじゃ、確かに」
はじめに声を掛けてきた男が、領収証にサインを記す。ルーカスはそれを受け取ってポケットに突っ込んだ。
「たまには遊んでいくか? 安くしとくよ」
ルーカスが答えないのを見越して、男は笑いながら先を続けた。
「なーんて。わかってるよ。クソ真面目な男め」
「ガキに興味がないだけさ」
吐き捨てるように言ってやると、男は一瞬意外そうに目を見開き、それからニヤリと笑ってみせた。
「若けりゃいいってもんじゃないって? 気が合うね。俺もそう思うぜ」
「そういう意味じゃない」
ルーカスは不機嫌に言い、それからふと思いついた風を装って訊ねた。
「処女は仕込みとかないんだろう?」
「まあね。大人しくさせる必要はあるから、一日か二日は使うけど」
「そんなにすぐに買い手がつくのか?」
「常連がいるからな。処女の泣き声が好きっていう旦那がさ」
男の素っ気ない口調が、ちくりとルーカスの胸を刺した。
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