2.天井からぶら下がった足

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*** 「よお、ルーカス。ご苦労さん」  出迎えの黒服がそう言った。  タクシー一台に仰々しい人数が出て来たのは、あの少女の言う通り、このタイミングで逃げ出そうとする「荷物」が少なくないからだ。彼らは建物への道をつくるように人垣で囲い、後部座席に眠る少女の顔を覗き込もうとした。 「ぐっすり眠ってるな。幸せなこった」 「悪くない。アジア好きオヤジどもが喜ぶぞ」  男のひとりが少女を抱き上げる。黒髪とともに細い手足が地に向かって垂れた。 「そんじゃ、確かに」  はじめに声を掛けてきた男が、領収証にサインを記す。ルーカスはそれを受け取ってポケットに突っ込んだ。 「たまには遊んでいくか? 安くしとくよ」  ルーカスが答えないのを見越して、男は笑いながら先を続けた。 「なーんて。わかってるよ。クソ真面目な男め」 「ガキに興味がないだけさ」  吐き捨てるように言ってやると、男は一瞬意外そうに目を見開き、それからニヤリと笑ってみせた。 「若けりゃいいってもんじゃないって? 気が合うね。俺もそう思うぜ」 「そういう意味じゃない」  ルーカスは不機嫌に言い、それからふと思いついた風を装って訊ねた。 「処女は仕込みとかないんだろう?」 「まあね。必要はあるから、一日か二日は使うけど」 「そんなにすぐに買い手がつくのか?」 「常連がいるからな。処女の泣き声が好きっていう旦那がさ」  男の素っ気ない口調が、ちくりとルーカスの胸を刺した。
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