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本当はそれよりもっと前の段階で、――どうやらあたしのインスタグラムのアカウントを見つけたらしい――大手レコード会社からアーティストとしてデビューしてみないかっていうお誘いは受けていた。だけどその時は学業を優先したかったのと、本当にそれが自分のやりたいことなのかが分からなかったのとで返事はノーにしていた。卒業してからは短大に進学して、地元の民間企業に就職したけれど、すぐにやっぱりあたしには音楽しかないことに気づいてたった一年で辞めた。
それから、どうせデビューするなら初めて味わったあのスカッとした気持ちを持ってデビューしたいと思ってバンドという形を取ることにした。その時に誘ったメンバーは、あたしのわがままでしかなかったのに、それに付き合うと言ってくれた。そんなだからみんなには頭が上がらない。
お父さんとお母さんにも同じことが言える。こんな、言ってしまえば博打と変わらない仕事をして生きていくと決めたあたしに対して、「ダメでも良いから納得できるまで精一杯頑張りなさい」と背中を押してくれた。それも一年しかまともに働かないで辞めてきたのに、だ。その時の感謝と言ったら、なんて言い表して良いものか。だから声を掛けてもらった当初の事務所じゃなかったにしろ、メジャーデビューすることが決まった時には真っ先に報告した。それから一時帰省した時には灰原家と司馬家が集まって祝杯を挙げる、なんてこともした。
ちなみにバンドの名前は「ポールスター」という。日本語で言うと「北極星」。いつかはこのバンドが北極星みたいに、他の星が回る中心になれば良いなとの思いであたしがそう名付けた。
「歌詞、どんな感じ?」
「難しいね。なんていうか、イメージとしてはぼんやりと浮かんでるんだけど、上手く言葉にできなくてもどかしい感じがしてる」
「あ~俺もそういうことよくある。何かこれじゃないんだよなーってこと、多いんだよな」
ポールスターの作曲方針は、あたしが詞を書いて遼くんが曲を作るという形を取っている。たまにメンバー全員で意見を出し合って作ることもあるけど、基本はそういうスタイル。
今はメジャーとして二枚目となるアルバムの曲を作っている真っ最中。全十四曲のうちの七曲はファーストアルバムリリース後に発表した六曲、それとバンド史上初のドラマ用に書き下ろしたタイアップソングで確定していて、後の七曲も六曲は完成したのに、残りの一曲だけがひたすら悩ましい。締め切りまであと二週間だけど、果たしてどうしようか。だけど今は羽を伸ばす時間だから仕事の話はここまで。
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